深夜二時、卓の向かいで彼女の口が小さく開いた。慌てて手で隠して、目が少し潤んでる。ごめん、って笑ってた。
あの瞬間、俺は内心でガッツポーズしてたんだよね。
あくびは眠気だけの話じゃない。体が勝手にやることの中で、あれだけは意志が追いつかない。だから面白い。表情は作れる、声色も調整できる。でも、あくびが出る出ないは本人にも決められないでしょ。
あくび一回で好意を判定するのは、無理がある
まず身も蓋もないところから。単発のあくびに意味を求めても、答えは出ない。
夜遅いのかもしれないし、部屋が暑いのかもしれない。前日に寝てないだけかもしれない。そこを飛ばして好意のサインだと決めつける人が多すぎる。
読むべきは、あくびそのものじゃなくて、その周りに起きてることのほう。
好意の前に出ているのは、体が緩んだという事実
緊張してる時、人はあくびが出にくい。交感神経が働いてるから体が戦闘態勢になってて、そもそも眠くならないわけ。
面接であくびが出ないのと同じ理屈。
つまり彼女があなたの前でふわぁっとやったなら、少なくともその場は戦闘態勢じゃない。ここは確実に言える。好きかどうかまでは飛べないけど、警戒は解けてる。
隠すか隠さないか、差が出るのはそっち
もっと言うと、隠し方に本音が出る。
初対面に近い相手の前だと、女性はまず口元を押さえる。それどころか、出そうな気配を感じた時点で喉で止める子もいる。あれ、意外と器用だよね。
一方で、隠すことすら忘れて口を開けちゃう時がある。ぼんやりした顔のまま、目がとろんとして、ワンテンポ遅れて我に返る。あ、と気づいて赤くなるやつ。
その一連が出たら、その子はもうあなたを前にして自分を管理してない。管理をやめた相手っていうのは、そんなに多くない。
あくびがうつるかどうかが、実は一番わかりやすい
ここからが本題かな。個人的に一番信じてるのは、あくびの伝染。
あくびは人にうつる。しかも、親しい相手ほどうつりやすいという研究がいくつも出てる。家族や恋人の間では伝染率が高くて、赤の他人だと落ちる。共感の回路と繋がってるらしい。
つまり、片方が好きかどうかより、二人の間に線が通ってるかどうかがわかる。
うつった夜は、たぶん噛み合っている
あなたがあくびをして、少ししてから彼女もやった。もしくはその逆。
そういう晩は、会話のテンポも合ってることが多い。相手の呼吸のリズムを無意識に拾ってるから、あくびまで拾っちゃう。
これ、狙ってできないのが良いところ。演技しようがないでしょ、伝染なんて。
うつらない夜は、静かに距離が開いている
逆もある。目の前で盛大にあくびされても、こっちは全く眠くならない。
そういう日は、会話が続いてても中身が届いてない。相手の話を単語として処理してるだけで、体が同期してない状態。
じわっと嫌な感じがするんだよ、後になって。あの日なんか噛み合わなかったな、っていう記憶だけ残る。
卓で女性たちが漏らしていた、あくびの本音
現場では、この手の話が普通に飛び交ってた。指名した相手の前で眠くなる自分に戸惑ってる子、けっこういた。
好きな人の前では絶対に我慢する派
三十手前の常連さんが、真顔で言ってたのがこれ。
「本命の前でとか無理。可愛くない顔になるじゃん」
これも本音なのよ。好意が強いほど、見た目の管理が厳しくなる子は確実にいる。だから好きな人の前ではむしろ出さない、という逆パターンも成立する。
そのぶん、一緒にいると疲れるらしいけど。ずっと自分を見張ってるわけだから、そりゃそうだよね。
気を抜けた相手の前でしか出ないという子
別の子は正反対のことを言ってた。
「あくび出た時点で、私この人といて楽なんだなって気づく」
自分の状態を、あくびで後から知るタイプ。感情に鈍い子ほどこの傾向が強かった気がする。
同じ現象なのに、真逆の解釈が両方成立する。だから単体で判定できないって最初に書いたわけ。まぁ、そういうもんだよ人間って。
俺があくびを見て判断していたこと
営業の話をすると身も蓋もないんだけど、卓であくびが出たかどうかは、けっこう重要な指標だった。
あくびが出た卓は、次が来る確率が高い
深夜に飲んでるんだから眠くなるのは当たり前。それでも我慢して姿勢を保ってる子は、その席をまだ仕事の場だと思ってる。営業されてる自覚がある状態ね。
そこがふっと緩むと、二回目の来店率が上がった。俺の体感では、あくびが出た子の再来店は明らかに高かった。
眠くなる相手を、人は嫌いにならない。少なくとも警戒はしてない。
一度だけ、読み違えて指名を落とした夜
もちろん失敗もしてる。
ある子があくびを連発した日があって、俺は完全に、心を開いてくれたと勘違いした。調子に乗って深い話に踏み込んだ。過去のこととか、家族のこととか。
その子、次の週から来なくなった。
後から人づてに聞いたら、その日は仕事で徹夜明けだっただけらしい。ただ眠かったのを、俺が親密さの証拠に変換してた。
ぐらっときたわ、あれは。自分に都合のいい読み方をしてる時の人間って、ほんとに何も見えてない。
眠気のあくびと安心のあくびを分ける、地味な手がかり
区別する方法がないわけじゃない。ただ、あくび自体を見ても答えは出ない。
直後の一言で、九割わかる
あくびのあとに、その子が何を言うか。
ごめん眠くなっちゃった、で会話を切り上げようとするなら、単純に眠い。あるいは帰りたい。
一方で、あくびの直後に話を続ける子。それどころか、さっきより砕けた口調になる子。これは緩んだほうのあくび。眠気が緊張を溶かして、素の喋り方が出てきてる状態。
会話が閉じるか、開くか。そこだけ見ればいい。
時間帯と体調を先に引き算する
深夜、満腹、暖房の効いた店。この三つが揃ってたら、誰の前でもあくびは出る。
まずは環境の分を差し引く。そのうえで、他の人と話してる時は出てないのに自分の前でだけ出るなら、そこで初めて意味が生まれてくる。
比較しないと信号にならないんだよね。単発では、ただの生理現象。
あくびを見たあと、こっちが何をするか
ここが分岐点だと思ってる。読み取ることより、そのあとの行動のほうが大事。
眠い?と聞くと、その場が終わる
反射的に出る質問がこれ。悪気はないんだけど、聞かれた側は、うん、と答えるしかない。
そこから会話が再起動する確率、低いんだよなぁ。事実確認って、だいたい会話を殺す。
引き際を判断できる男は、次に繋がる
俺が一番効くと思ってるのは、こっちから切り上げること。
そろそろ帰ろっか、と言われた時の女性の顔、あれ独特なのよ。ちょっと残念そうで、でも安心してる。名残惜しさを残したまま解散すると、次の約束が取りやすくなる。
眠そうな相手を引き止めて長引かせるのは、自分の欲を優先してるだけ。ぱちぱち瞬きが増えてきたら、そこが引き際。
限界まで付き合わせた男より、先に気づいて帰した男のほうが記憶に残る。地味だけど、これが一番効く。
隠さなくなった時が、たぶん本番
好きな人の前であくびをするかどうか。答えは、その子の性格で割れる。取り繕う子は隠すし、無防備な子は出す。
ただ、どちらのタイプでも共通することがひとつだけあって。付き合いが深くなるほど、隠す動作が雑になっていく。
最初は手で完全に覆ってたのが、そのうち指の隙間から見えるようになって、最後は隠しもしない。
その変化を見逃さない人でいたい。

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