なぜ浮気相手は可愛く見えるのか|脳が作る錯覚と冷める瞬間

四十代の男が、写真を見せてきたことがある。相手の女性の写真。

正直に言うと、俺には普通の子に見えた。特別に整った顔でもない。

でもその男は、これ以上ないくらい真剣な顔で言った。

「こんな綺麗な子、生まれて初めて見た」

あの時の目、今でも覚えてる。本気だったんだよ。嘘でも見栄でもなく、彼の目にはそう映ってた。

目次

可愛く見える理由の大半は、相手の中にない

先に身も蓋もないことを書く。

浮気相手が輝いて見えるのは、その人が特別だからじゃない。会い方が特別だから。

同じ人を、毎朝寝癖のついた顔で見て、生活費の話をして、体調の悪い日に付き合ったら、たぶん同じようには見えない。

つまり見えてるのは相手じゃなくて、条件が作った像のほう。

会う時間が、最初から編集されている

浮気相手と会う時間には、面倒な部分が丸ごと入ってない。

支払いの相談も、親戚付き合いも、風邪をひいた時の看病もない。会うのは、両方が整えてきた数時間だけ。

しかも準備の時間が長い。当日の服も、行く場所も、事前に決めてる。予告編を毎回見せられてるようなもんでしょ。本編は永遠に始まらないのに。

会えない時間が、勝手に補完している

もっと大きいのはここ。

会う頻度が低いほど、間の時間で想像が働く。相手が何をしてるか、どんな気持ちでいるか。答えが入ってこない部分を、こっちの脳が都合よく埋めていく。

その埋めた部分こそが、可愛く見えてる正体。実物じゃない。

だから会う回数が増えると、たいてい熱が下がる。埋めてたところに事実が入ってきて、想像が押し出されるから。

脳の仕組みとして、そうなるようにできている

科学的な話も少しだけ。

危険と興奮が、脳では混ざる

心拍が上がってる状態で人と会うと、その高鳴りを相手への感情だと解釈する。吊り橋効果と呼ばれるやつ。

浮気は、常にバレる緊張がある。連絡を消す、時間を作る、嘘をつく。この緊張がずっと続いてる。

その状態で会うんだから、心拍は上がってる。そして脳は、その理由を目の前の人に結びつける。

危ないことをしてるから、好きに見える。順番が逆なんだよね。

手に入らない時間があるほど、価値が上がる

いつでも会える相手より、次にいつ会えるかわからない相手のほうが、頭を占める割合が増える。

これは希少性の話であって、魅力の話じゃない。同じ人が、明日から毎日そばにいる状態になった瞬間、この効果は消える。

消えることを知らないまま、今の感情を永遠のものだと判断してしまう。ここが一番怖い。

隠すという行為が、二人を接着する

秘密を共有してる相手には、異様な親密さが湧く。

二人だけが知ってる事実がある、という状態そのものが、関係を濃く感じさせる。中身は関係ない。

だから隠す必要がなくなった瞬間、その接着剤も同時に消える。実際、離婚して一緒になったカップルが数ヶ月で終わるのは、これが大きいと思ってる。

卓で女の子たちが言っていた、その立場からの本音

夜の店には、そちら側の立場の女性も普通にいた。だから両側の言い分を聞いてきた。

一番いい部分だけを見せてる自覚がある

二十代後半の子が、酔った顔でこう言った。

「機嫌が悪い日は会わないもん。だからあの人、私が怒ってるとこ見たことないと思うよ」

これ、ぞわっとしたわ。

彼女は自覚してた。自分が編集された姿しか見せてないことを。悪意じゃなくて、限られた時間を壊したくないだけ。

結果として、相手の男の中には非の打ちどころのない女性像が育っていく。本人の意図とは無関係に。

選ばれることを、待っているわけでもない

別の子は、もっと冷めたことを言ってた。

「本気で好きになられると重いんだよね。奥さんと別れるとか言い出すし」

これも本音でしょ。

男が可愛くて仕方ないと熱を上げてる時、相手が同じ温度とは限らない。むしろ距離を保ちたがってることが多い。

一人で走ってる状態に気づかないまま、全部差し出そうとする男を、俺は何人も見た。

俺が現役の頃、毎晩やっていたのは同じ作業だった

自分の話に引きつけると、これ、ホストの営業そのものなんだよ。

編集された時間を売っていた

俺が卓で見せてたのは、俺の一番いいところだけ。

疲れてる顔も、金に困ってる話も、他の客の愚痴も出さない。数時間だけ、完璧な相手を演じる。

すると、客の中で俺の像が勝手に育つ。俺自身より、遥かに良い人間として。

これを毎晩やってた人間だから言えるんだけど、限られた時間だけ会う相手を正確に評価するのは、人間には無理。

一度だけ、素を見られた日のこと

ある常連さんに、営業時間外で偶然会ったことがある。

昼過ぎのコンビニ。俺は寝起きで、髪もセットしてなくて、ジャージだった。

向こうも気まずそうにして、二言三言だけ話して別れた。

その子、次の週から来なくなった。

しばらく落ち込んだけど、後になって理解した。彼女が好きだったのは俺じゃなくて、店の照明の下にいた像のほう。それを壊したのは、他ならぬ俺自身。

ヒヤッとしたよ、あれは。自分が売ってたものの正体を、その日ようやく見た気がして。

錯覚が解ける瞬間には、共通点がある

いつ醒めるのか。これも見てきた範囲で書いておく。

生活の場面に入った時

一緒に住む、旅行で長時間過ごす、看病する。

こういう場面が入ると、編集されてない部分が見える。歯の磨き方とか、疲れた時の口調とか、金の使い方とか。

そこで一気に評価が変わることがある。良いほうに変わる場合もあるよ。ただ、可愛くて仕方ないという熱そのものは、確実に下がる。

隠す必要がなくなった時

さっき書いた接着剤の話。

堂々と会えるようになると、あの緊張が消える。緊張と一緒に、高揚も消える。

残るのは、二人の相性そのもの。それが良ければ続くし、良くなければ終わる。

つまり錯覚が解けた後にしか、本当の判断はできない。

今の感情を、どう扱えばいいのか

説教する気はないんだけど、判断材料だけ置いておく。

同じ人を三ヶ月、日常の中で見てから決める

熱が高い時期の判断は、まず外れる。

この感情が錯覚じゃないと思うなら、時間を味方につければいい。半年経っても同じ強さなら、それは本物かもしれない。

急がされてる感覚がある時ほど、それは自分の中の緊張が言わせてる。

相手のどこが好きか、具体的に言えるか試す

可愛い、綺麗、話が合う。この抽象語しか出てこないなら、見てるのは実物じゃない。

三ヶ月前の具体的な場面を、いくつ思い出せるか。相手の欠点を三つ挙げられるか。

挙げられないのは、良い相手だからじゃなくて、見えてないから。

失うものを、一度紙に書く

これが一番残酷で、一番効く。

今の熱が続くと仮定して、何を差し出すことになるか。人、時間、金、信用。

書いてみると、頭の中で計算してた時より、はるかに多い。俺の周りで書いた人は、だいたいそこで一度止まった。

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