ドタキャンされた回数なら、三桁いってる
ホスト時代、ドタキャンされた回数を数えようとしたことがある。 半年分の手帳をめくって、途中でやめた。三桁が見えたから。 だから、された側の気持ちなら日本でも上のほうに詳しい自信があるし、した側の事情も、カウンター越しに嫌というほど聞いてきた。
されるプロだったから分かること
ドタキャンって、された瞬間はそこまで痛くないのよ。予定がぽかんと空いて、少し呆けるだけ。 ずしっと来るのは、そのあと。空いた時間の中で、相手にとっての自分の順位を確認する作業が始まってから。 連絡が来なくなったあなたの相手も、たぶんその作業をした。
切られたのはキャンセルじゃなく、そのあと
先に大枠を渡しておくと、ドタキャンそのもので関係が終わることは少ない。 終わるのは、キャンセルの伝え方と、その後の動きのほう。 同じ当日キャンセルでも、続いた関係と切れた関係を山ほど見てきた。差は綺麗に分かれてたから、後ろで全部書く。
連絡が来なくなった側で、何が起きているか
怒っているんじゃなくて、格下げしている
ここが一番誤解されてる。 消えた相手は、怒っていないことが多い。怒りって、まだ続けたい人の感情なんだよ。期待が残ってるから腹が立つ。 連絡が止まった時に起きているのは、静かな格下げ。優先度の棚からあなたを一段下ろして、追うのをやめた。降格には音がしないから、こっちは気づけない。 そして格下げは怒りじゃないから、謝罪では戻らない。謝罪は怒りに効く薬であって、順位には効かない。ここを知らないまま謝罪を重ねる人が多すぎる。 ちなみに男女が逆でも仕組みは同じ。というか、女性のほうが処理が速かった。保留にせず、その日のうちに棚から下ろす人が多い。
優先順位の通知として届いてしまう
キャンセルの中身が体調でも仕事でも家庭の事情でも、正直あまり関係ない。 受け取る側の頭で起きるのは内容の審査じゃなくて、自分より上の予定があったんだな、という順位の確認。 理不尽でしょ。実際、理不尽な時もある。本当に動けない事情は存在するから。 ただ、通知として届くのは止められない。だから、その通知を打ち消す動きが要った、という話になる。
何回目だったかで、意味が変わる
同じドタキャンでも、初回のデート前と五回目では別物。 まだ一度も会っていない段階、または一回会っただけの段階でのキャンセルは、お断りの婉曲表現として処理される。実際その使い方をする人が多いから、疑われても仕方ない。 何度も会っている関係なら、事故として扱われる余地が残ってる。 自分のケースがどっちだったかで、挽回の難易度は最初から違ってたわけ。
終わるドタキャンと、続くドタキャンの差
されるプロとして、ここは言い切れる。
連絡の時刻
前日の夜、当日の集合二時間前、集合時間を過ぎてから。この三つは全部別の行為だからね。 早いキャンセルには、こちらの時間を守ろうとした痕跡が残る。集合後の連絡は、待った時間ごと相手を捨てた形になる。 店でも、前日に飛ばす客とは続いた。無断で飛ばす客とは、こっちの心が先に終わってた。
理由の具体性
体調不良で、急用ができて、外せない用事があって。この抽象度のまま送ると、嘘の定型文と区別がつかない。 本当のことなら、具体で書けるはずなの。熱が三十八度ある。親が倒れて病院にいる。仕事のトラブルで日付が変わりそう。 具体は信用される。抽象のまま置くと、順位の通知だけが残る。
代替日を、誰が出したか
これが一番デカい。 ごめんなさい、また今度、で終わらせた人。ごめんなさい、来週の水曜か金曜なら必ず、まで送った人。 続いたのは、日付を差し出したほうだけだった。ほぼ例外なく。 また今度って、日本語で一番あてにならない約束だから。
店で聞いた、ドタキャンした側の本音
行きたくなかったんじゃなくて、怖くなった
「あの日ね、行きたくなかったわけじゃないの。当日になったら急に怖くなって。楽しみにしすぎて、会って幻滅されたらどうしようって、部屋から出られなくなった」 アフターで聞いた話。彼女が飛ばした相手は、それきり連絡をくれなくなったらしい。 好きだから飛ぶ、という動きは実在する。期待が膨らむほど、当日の体が重くなる人がいるんだよ。 ただ、これは相手に絶対伝わらない。伝わらないまま、脈なしとして処理されて終わる。聞いててはぁ、とため息が出た。もったいないなんてもんじゃない。
どこまで許されるか、見てた部分はあった
別の子は、もっと生々しいことを言ってた。 「試したつもりはなかったけど……どこまで許してくれるかは、見てたかも」 ちくっとしたね、聞いてて。 やられた側は、たいてい気づいてる。気づいた上で、試される側に回された時点で降りる男は多い。試験官と受験者になった恋愛は、どっちかが必ず先に疲れる。
俺が連絡をやめた時の話
三回目の当日キャンセルで、送るのをやめた
よく来てくれる客で、個人的にも憎めない人だった。ただ、当日キャンセルが続いた。一回目は笑って流した。二回目も流した。 三回目の夜、空いたテーブルを片付けながら思った。 (あ、もういいや) 怒りじゃなかった。すとん、と何かが下りた感じ。それ以降、営業のラインを送るのをやめた。
謝罪が来ても、返さなかった理由
数日後、長い謝罪が届いた。読んだ。返さなかった。 当時は、忙しかったからだと自分に説明してた。今なら分かるよ。傷ついてたと認めたくなかっただけ。 三回すっぽかされても待ってる男だと思われるのが嫌だった。それだけ。自尊心の問題。 連絡をやめた男の中身なんて、だいたいこんなもん。かっこよくもなんともない。これ以上、自分の順位の低さを確認したくないだけなんだよね。
挽回するなら、一手だけ
謝罪の追加はしない
もう一度謝ったなら、二通目の謝罪は送らない。 謝罪を重ねるのは、濡れた紙に字を書き足すようなもので、にじんで重くなるだけ。読む側の負担が増えていく。 罪悪感を軽くしたいのは、送る側の都合だから。
日時と場所を、確定させて送る
送るなら、これ一本。 この前は本当にごめんなさい。お詫びに〇日の十九時、〇〇を予約したから、ご馳走させて。 勘所は、相手に選ばせないこと。どこがいい?いつ空いてる?と聞くのは、キャンセルで奪った手間を、さらに相手へ渡す行為になる。 日付、時間、店。全部こちらで固定して、コストをこちらが払う形にする。相手はイエスかノーを言うだけでいい。 順位の通知を打ち消せるのは、言葉の量じゃなくて、先に払われた手間だけだった。店で何百回も見た景色だから、ここは信じてもらっていい。
返ってこなかったら、それが返事
一通送って、返事がなければ終わり。追撃はしない。 既読のまま三日過ぎたら、格下げは確定してる。そこから何通重ねても順位は戻らないし、重ねた分だけ最後の印象が濁る。 一通で引けた人は、いつか別の場所で会った時に、まだ普通に話せる。十通送った人は、視界ごと消される。
沈黙の長さ別の、現実的なところ
一週間以内
まだ動く。相手の中で処理が終わりきってない時期だから、確定案の一通が刺さる余地は十分ある。むしろ変に寝かせないほうがいい。
一ヶ月
五分五分より下。ただゼロじゃない。 この時期に送るなら、謝罪の蒸し返しはやめること。明るく、短く、確定案だけ。重い総括文を送ると、終わりかけた話を掘り返された感じになって、ぐらつきかけた気持ちがまた閉じる。
それ以上
相手の生活は、もう再編されてると思ったほうがいい。 送るなとは言わない。ただ、返ってこないことを前提に、自分の区切りとして一通だけ、という位置づけならあり。返事を目的にすると、しんどくなるのは自分だから。
三桁飛ばされた側として、最後にひとつ。 一回のキャンセルで消える関係は、どうせ長く続かなかった、とは俺は思ってない。続くはずだったものが折れる音を、あの仕事で何度も聞いたから。 ただ、折れたあとの一手で戻ってきた人も確かにいた。戻れた人は全員、謝罪の長文じゃなくて、日付を持ってきた人だったよ。

コメント