終電のあとの、もう一軒
終電が過ぎたあとで、彼女がもう一軒行こうと言った。 彼氏持ち。二人。時刻は零時半。 俺は腕時計を見て、なぜか店の閉店時間のことを思い出してた。あの仕事には、必ず終わりの時間があった。ラストの合図が鳴って、どんなに盛り上がってても客は帰る。 外には、それがないんだよね。
店には閉店時間があった
ホスト時代、彼氏持ちの女性と二人で向き合うのは毎晩のことだった。 壊れなかったのは、枠があったから。料金という枠、閉店という枠、こっちは仕事という立場の枠。三重に囲われてたから、あの距離感が成立してた。 枠の中で見れば、彼氏持ちと二人で会うこと自体は、そこまで危ない行為じゃない。
外には、終わりの時間がない
問題は、その枠が一個もない場所で同じことをやる時。 昼のカフェから始まった関係が、夜になり、終電を越え、気づいたら日付の感覚がなくなる。誰も終わりを告げてくれない。 だから自分で作るしかないの、終わりの時間は。この記事でいちばん言いたいのは、たぶんそれ。
彼氏持ちのOKは、フリーのOKより軽い
盾があるから、気軽に会える
誘って、OKが返ってきた。彼氏がいるのに。だから特別なんだろう、と読む男は多い。 逆なんだよ。 「彼氏がいるから会えるんだよ。フリーだったら、たぶん断ってた」 店でこれを聞いた時、しんとした。彼氏という盾があるから、何も起きない前提で返事ができる。何かあっても、彼氏いるからごめん、で終わらせられる。出口が最初から確保されてる。 盾を持ってる側の返事は、軽い。持ってない側の返事より、ずっと。
返事の重さを、読み違える
フリーの女性が二人で会うと言えば、そこには少なくとも可能性を残す判断がある。 彼氏持ちの女性が同じ返事をした時、可能性はむしろ切られた状態で渡されてる。安心して会えるからOKした、が実態。 ここを取り違えると、始まる前から期待の量がずれる。ずれたまま進むと、後で自分だけが痛い。
会う前に、男側が決めておくこと
会う前に決めておく。会ってからだと、判断が全部甘くなるから。
好きになった時の出口を、先に決める
一番大事なのに、誰もやらないやつ。 このまま会い続けて、もし好きになったら自分はどうするか。距離を取るのか、伝えるのか、それでも会い続けるのか。 好きになってから考えると、答えは必ず、会い続ける、になる。感情が出た後の判断は判断じゃない。だから、まだ何もない今のうちに決めておく。紙に書くくらいでちょうどいい。
線は相手に引かせず、自分で引く
彼女は盾を持ってる。こっちは持ってない。 この非対称の中で線引きを相手に任せると、盾を持ってる側の都合で全部が決まる。今日はいいよ、今日は無理、の基準がこっちには見えない。 だから場所も時間も、自分で決める。彼女が決めるのを待たない。ダサく見えても、自分の線を自分で持ってる男のほうが、結果として長く信用される。
終わりの時刻を、持って行く
会う前に、今日は何時に帰る、を決めておく。相手に言う必要はない。 守れたかどうかが、自分の状態を測る目盛りになる。決めた時刻に立てなくなった回数が増えたら、線が動いてる。動いてるのは相手じゃなくて自分のほう。
会っている最中の線引き、四つの軸
どこからがアウトなのか。場所と時間で判定する人が多いけど、決め手は別のところにある。
場所
昼のカフェ、オープンな店、人目のある場所。ここは二人で会うの範囲。 個室、車の中、どちらかの部屋。ここに入ると、行為の名前が変わり始める。 場所は分かりやすい分、油断もしやすい。個室じゃないから平気、という理屈で、何度も終電を越えてる人を見てきた。
時間帯
終電前に終わる会と、終電後に続く会は別物。 日付が変わったら、彼氏に説明できない時間に入ってる。説明できない時間が増えるほど、二人の間に彼氏に言えないものが溜まっていく。 時計を見るのは、自分の状態を確認する行為だと思ったほうがいい。
話の中身
仕事、趣味、共通の友達、くだらない話。ここは安全圏。 彼氏への不満、恋愛観、そして、二人の関係そのものについての話。ここに入ったら、もう二人で会ってるだけじゃない。 関係について話し始めた時点で、関係は動いてる。話題が線を越えるのは、体が線を越えるより先。
秘密性
四つの中で、これがいちばん強い。 彼氏に言える会か、言えない会か。これ内緒ね、が一度でも出たら、場所も時間も関係なく、性質が変わってる。 秘密は、二人の関係に第三の登場人物を作る。彼氏という、知らされていない人。その瞬間から、会うたびに彼が置き去りにされる。 昼のカフェでも、秘密が一個入ればアウト側に寄る。真夜中でも、彼氏が知っていて了承してるなら、まだ二人で会うの範囲にいる。
店で聞いた本音
彼氏がいるから、会えるんだよ
さっきの言葉の続き。 「彼氏いるって最初に言っとけば、向こうも変なこと考えないでしょ。私も安心して遊べるし」 彼女にとって彼氏の存在は、後ろめたさじゃなくて、安全装置だった。開示は誠実さでもあり、同時に、何も期待しないでね、という予告でもある。 この予告を聞き流して舞い上がった男が、後で勝手に傷つく。
隠し始めたら、自分でもやばいと分かる
「二人で会うのは平気なの。でも、会ってることを彼氏に言わなくなったら、あ、やばいなって自分でも分かる」 線引きの基準が秘密性だという話、本人たちも同じ場所で測ってる。 彼女たちは、自分がどこにいるかをけっこう正確に把握してる。分かってて越える人と、分かってて止まる人がいるだけ。
悪口に乗る男は、あとで冷める
「彼氏の愚痴に一緒になって乗ってくる男って、その場はすごい楽しいの。でも帰ったあと、なんか冷めるんだよね」 これを聞いた時、胃が重くなった。心当たりがありすぎて。 次の章はその話。
俺が彼氏より下になった夜
そういうとこあるよね、と言ってしまった
私生活で、彼氏持ちの女性と月に二回くらい飲んでた時期がある。 ある夜、彼女が彼氏の不満を話してた。約束を忘れる、連絡が雑、みたいな。 俺は言ったんだよね。彼、そういうとこあるよね、って。少し盛って。彼女の側に立ってるつもりで。 その瞬間、彼女の表情が止まった。しんと静まった感じ。話題はすぐ変わったけど、あの間は忘れられない。 それから会う回数が減って、数ヶ月後に人づてに聞いた。彼氏のこと、あんな風に言われて冷めた、と。
悪口に乗った瞬間、比較の土俵に降りていた
何が起きたか、今なら分かる。 第三者として横にいるうちは、俺は比較の外にいた。彼氏と並べられる存在じゃなかったから、気楽に会えてた。 悪口に乗った瞬間、俺は自分から彼氏の隣に立って、比べられる位置に降りた。 そして比べられたら、付き合ってる側が勝つ。当たり前でしょ。彼氏には積み上げた時間があって、俺には月二回の飲みしかない。 彼女が冷めたのは、悪口の内容じゃない。俺が土俵に降りてきたこと、それ自体だった。ずるっと足を滑らせた感覚が、今でも残ってる。
好きになってしまった後の三択
出口を決めずに会い続けて、好きになった。よくある。というか、大半がそう。ここからは三つしかない。
待つ
彼氏と別れるのを待つ。 これは順番待ちの椅子に座ること。呼ばれる保証はない。呼ばれた時に、自分が本当に望んだ形で呼ばれるかも分からない。 待つなら、期限を自分で切る。半年、一年、なんでもいい。切らないと、椅子に座ったまま何年も経つ。それも見てきた。
言って、離れる
伝えるなら、伝えた上で距離を取る。 言ったまま隣に居続けると、その気持ちは彼女の手元に置かれて、使われる日を待つことになる。 「好きって言われた時、正直ちょっと嬉しかった。でもそのあと、会いづらくなった」 言われた側の本音はこれ。嬉しさと気まずさが同時に来る。どっちにしても、以前の関係には戻れない。戻れないなら、自分から離れたほうが傷は浅い。
引く
何も言わずに距離を取る。理由は言わなくていい。 一番ダサく見える選択だけど、一番自分が守られる。 引く時に、相手に説明を求められることがある。なんで最近会えないの、って。そこで正直に話すか、忙しいで通すかは、その時の自分が決めればいい。どっちも間違いじゃない。
会った後に、確認すること
帰り道の自分の顔
店を出て、駅まで歩く間の顔。 楽しかったな、で終わってるなら、まだ二人で会うの範囲にいる。 帰り道にもやもやしてる、彼氏のことを考えてる、次いつ会えるかばかり考えてる。この状態なら、もう範囲を出てる。自分の顔がいちばん正直だよ。

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