話は普通にできてる。笑ってもくれる。
なのに、なんか壁がある。何回会っても同じ距離のまま。
その違和感、けっこう当たってると思う。で、たいていの男はその正体を読み違える。
警戒されているとき、女性の体が先に動く
荷物の位置が変わる
これがいちばん早い信号。
テーブルの上にあった鞄が、いつのまにか膝の上にある。隣の椅子に置いてたのを、体の横に引き寄せてる。
意識してやってるわけじゃない。本人に聞いても、たぶん覚えてない。ただ、体が防御の形を取ってる。
俺は現役時代、席についた瞬間に相手の鞄を見る癖がついてた。あれで初回の空気がだいたい読める。
座る角度と、出口までの距離
正面を向かない。体が斜めのまま固定される。
膝から下が、出口のほうを向いてることも多い。上半身はこっちを向いてても、下半身が逃げ道を確保してる。
あと、席を選ぶとき。壁側の奥に入りたがらない人は、いつでも立てる位置を残してる。
観察してると、ちょっと申し訳なくなるくらい分かりやすい。
笑うのに、目が動いていない
これはもう少し細かい話。
警戒してる状態でも、社交的な人は普通に笑う。笑うんだけど、笑ってる時間が短い。口が戻るのが早い。
目のほうも、笑うときに細くならない。表情筋の上半分が動いてない。
俺はこれを見分けるのに三年かかった。分かるようになってから、店での失敗が減った。
会話の中に出てくる、静かな線引き
自分の話をしなくなる
質問には答える。でも、そこから広げない。
仕事は何してるの、と聞けば答える。答えて終わり。逆に聞き返してくることもない。
会話が続いてるように見えて、実は一方通行になってる。喋ってるのは自分だけ、という状態に気づいたら、それは警戒されてる合図。
盛り上がってると勘違いしたまま二時間喋る男、めちゃくちゃ多い。俺も昔やった。
答えが全部、ふわっとした形になる
住んでるとこどこ?と聞くと、この辺です、と返ってくる。
休みの日は?と聞くと、いろいろですね、と返ってくる。
具体が出てこない。地名も、店の名前も、友達の名前も出さない。全部ぼかされてる。
これ、意図的にやってる場合と、無意識の場合がある。どっちにしても、まだ情報を渡す段階じゃないと判断されてる。
予定を聞かれると急に忙しくなる
今度ご飯行こうよ、に対して、忙しくて、が返ってくる。
ここで大事なのは、代案が出るかどうか。来月なら、とか、平日の夜なら、とか。何かしら別の枠を提示してくるなら、まだ扉は閉まってない。
忙しい、だけで止まる場合。しかもそれが二回続く場合。それは断りの言い換えね。
連絡の取り方で分かること
返信の時間帯が昼だけになる
夜に送ったメッセージの返事が、翌日の昼に来る。これが毎回続く。
夜のやりとりって、距離が縮みやすい。だから警戒してる相手とは、夜に会話しない。無意識に避けてる人もいるし、はっきり決めてる人もいる。
昼の返信は事務、夜の返信は関係。この区別、けっこう当たる。
二人の話にならず、常に第三者が出てくる
みんなで行きましょう、とか。友達も誘っていいですか、とか。
二人きりの状況を作らせない。これは相当はっきりした警戒サイン。
同時に、完全に切りたいわけでもない、という意思表示でもある。切りたいなら誘い自体を断ればいいので。
つまり、関係は続けたい、でも二人は無理。ここが今の位置。
既読のままにする回数が増える
返さないという選択が増えてきたら、それは警戒が強まってる。
特に、返さなくても支障のないメッセージを選んで無視するようになる。用件には返す。雑談には返さない。
この選別が始まったら、こっちの送るメッセージの中身を見直したほうがいい。たぶん、雑談の内容が重いか、頻度が多い。
警戒と、嫌われていることの違い
警戒は解ける、嫌悪は解けない
ここを混ぜて考えると、対応を全部間違える。
警戒は、まだ判断してない状態。危険かどうか分からないから、とりあえず距離を取ってる。情報が足りてないだけ。
嫌悪は、判断が終わった状態。もう決まってる。
だから、警戒されてるなら時間が味方する。嫌われてるなら時間は何もしてくれない。
距離を詰めた瞬間の反応で見分ける
一歩近づいたときに、相手が固まるか、離れるか。
固まる人は警戒。どうしていいか分からなくて動きが止まる。
すっと離れる人は、もう答えが出てる。迷いがないから動作が滑らか。
この違い、見てるとけっこう分かる。分かった瞬間ちょっと切ないけどね。
時間が経つほど悪化するかどうか
三回会って、三回とも同じ距離感なら、警戒が続いてる状態。
三回会うごとに距離が遠くなってるなら、それは警戒じゃない。会うたびに判断材料が増えて、答えが固まってきてる。
回数を重ねても近づかないなら、こっちのやり方に問題がある。同じことを続けても結果は変わらない。
ホストクラブで女性たちが話していた警戒の中身
何もされてないのに怖かった、と言った人
三十代の常連さんが、前に別の店で嫌な思いをした話をしてくれた。
何かされたわけじゃないの。ただ、この人いつ距離詰めてくるんだろうって、ずっと考えてた。
その、いつ来るか分からない状態が一番しんどいらしい。実害より、予測できないことのほうが怖い。
これを聞いてから、俺は自分の動きを予告するようになった。次これしますね、みたいな。効いた。
やたら褒めてくる男が一番怖い
二十代の子が言ってて、ぎくっとした一言。
初対面で褒めてくる人、何を根拠に言ってるのか分かんないから怖い。
褒めれば喜ぶ、と男は思ってる。俺もそう教わった。でも彼女の言い分は筋が通ってた。まだ何も知らない相手を褒めるのは、中身を見てないという証明になる。
そこから俺は、褒める場所を変えた。外見じゃなく、その日の選択に触れる。この店選んだのいいですね、みたいな。反応が違った。
一度警戒すると、戻すのに何ヶ月もかかる
四十代の人が言ってた話が、いちばん現実的だった。
一回引いたらね、戻すのに半年よ。相手が変わっても、こっちの体が覚えてるから。
警戒って、その場の判断じゃなく蓄積なんだよね。過去に一度でも怖い思いをした人は、次から反応が早くなる。
つまり、あなたに向けられてる警戒の半分は、あなたが作ったものじゃない可能性がある。
元ホストの俺が、警戒された側の記憶
初回の席で、鞄を膝に抱えられた夜
入店して半年くらいの頃。初回のお客さんの席についた。
彼女は最初から鞄を膝に抱えてた。ずっと抱えたまま、一時間。
俺は必死に話を盛り上げようとした。喋って、笑わせて、酒を作って。彼女は笑ってた。笑ってたのに、鞄が一度も動かなかった。
帰ったあと、先輩に言われた。お前、うるさかったよ、と。
しゅん、とした。俺は空気を埋めることばかり考えて、彼女が黙っていられる時間を作らなかった。
距離を詰めるのが早すぎた頃のこと
二十歳の頃、俺は距離を詰める速度で勝負してた。
初回で下の名前で呼ぶ、初回で連絡先を聞く、初回でボディタッチを入れる。全部やってた。
数字は出た。ただ、リピートしない人が異常に多かった。
原因が分かったのは二年くらい経ってから。速さで動く客は速さで離れる。ゆっくり警戒を解いた人だけが、長く来てくれてた。
うわ、俺ずっと逆やってたんだ、と気づいたときの脱力感、いまでも覚えてる。
警戒が解けた瞬間に起きた変化
さっきの鞄を抱えてた人。実は、そのあと何度か来てくれた。
三回目か四回目のとき、彼女がテーブルに鞄を置いた。何気なく置いた。
その日、初めて彼女が自分の話をした。仕事の話、家族の話。それまで一切出てこなかったやつ。
鞄が下りた瞬間に、会話の質が変わる。あれを見てから、俺は焦らなくなった。荷物が動くまで待てばいい、と分かったので。
警戒されていると気づいた後にやること
まず、詰めた距離を元に戻す
警戒に気づいたとき、多くの男は逆をやる。もっと親しくなろうとして、連絡を増やす。会う頻度を上げようとする。
これ、火に油。
やることは減らすほう。連絡の頻度を落とす、質問を減らす、褒めるのをやめる。
一歩下がると、相手の中で緊張が抜ける。抜けたところから、また会話が始められる。
予測できる人になる
さっきの、いつ距離を詰めてくるか分からないのが怖い、という話。
あれの対処は、動きを読めるようにすること。
連絡する時間帯を一定にする。会う場所を毎回同じ系統にする。何をしたいのか先に言う。全部、地味な話。
派手なことをするより、この地味さのほうが警戒を溶かす。安全は退屈さの中にあるので。
逃げ道を先に用意しておく
食事に誘うとき、終わりの時間を先に言う。二時間で解散しましょう、と。
帰り道を選ばせる。送りますか、と聞かずに、どっち方面ですか、と聞く。
いつでも抜けられる状態を作ると、人は逆に留まる。閉じ込められないと分かってる場所には、また来られるので。
これはホストの技術というより、単純に人が安心する条件の話。
警戒は、こっちが渡した情報の少なさに対する反応
警戒されてる状態って、要するに相手が判断材料を持ってないだけ。
危険だと決めつけられてるんじゃない。危険じゃないという証拠がまだ揃ってない。
だから証拠を出せばいい。時間をかけて、同じ振る舞いを繰り返して、この人は読める人だと思ってもらう。
それを面倒だと思うなら、たぶんその相手じゃなくていい。面倒だと思わないなら、半年くらい見てあげればいい。
鞄がテーブルに戻る日は、案外ふつうにやってくる。

コメント