笑いながら楽な日と、笑いながらえぐられる日
客にいじられるのは、仕事のうちだった。 髪型をけなされる。背の低さをネタにされる。過去の失敗を何度も蒸し返される。俺はずっと笑ってた。 ただ、笑いながら本当に楽だった日と、笑いながら内側をえぐられていた日がある。 外から見たら、たぶん同じ顔をしてたと思う。
その差が、この記事の中身
下の立場に置かれるのを楽しんでいる時と、耐えている時。 中身はまるで違うのに、表に出る反応が同じなんだよ。だから、いじっている側には区別がつかない。 Mな彼氏との付き合い方でつまずく人の大半は、たぶんここを見誤ってる。
Mな彼氏には、二種類が混ざっている
委ねるのが好きな人
決めてもらうこと自体が楽しい人。 相手が選んだ店に行って、相手が決めた予定で動く。それを不満に思わないどころか、楽しんでる。 特徴として、選んでもらった結果を素直に受け取る。外れた日も、外れたね、で笑って終わる。
決めるのが怖い人
同じように委ねてくるけど、動機が違う。 自分で決めて失敗するのが怖い。失敗した時に責任を負うのが嫌。だから最初から相手に渡してしまう。 優しさや従順さに見えるけど、実際にやってるのは責任の移し替え。
見分けは、決めた後に文句が出るかどうか
これが一番はっきりする。 委ねるのが好きな人は、結果を受け入れる。自分が選ばなかったことを、後から持ち出さない。 怖くて渡している人は、後から出てくるの。別に俺はここじゃなくてもよかったんだけど、みたいな一言が。
「彼、決めてって言うくせに、後から文句言うんだよね」
店でこれを聞いた時、心当たりがありすぎて黙った。決めさせておいて評価する側に回るのは、一番ずるい立ち位置だから。
委ねるのが好きな人と、どう付き合うか
命令より、二択を出す
強く出ればいい、と思われがちだけど、たぶん違う。 委ねたい人は、決定を渡したいだけで、無から選ぶのが苦手なわけ。だから命令されるより、二択を出されるほうが答えやすい。 今日どこ行きたい?と聞くと固まる人が、こっちとこっち、どっちがいい?だと即答する。 全部こちらが決めるのでも、全部相手に投げるのでもなく、選択肢を作って最後の一手だけ渡す。これがいちばん機嫌よく回る形だった。
決めた後に、理由を一言添える
ここにしたのは、あなたが魚好きだからだよ。 この一言があるかないかで、受け取り方が変わる。 決められたことが嬉しいんじゃなくて、自分のことを考えて決められたのが嬉しいんだよね。理由がないと、ただ従っただけになる。
委ねられたことに、たまに礼を言う
任せてくれてありがとう、を年に何回か言う。 これ、意外と効く。委ねる側は、自分が何も差し出していないと感じていることが多いから。 任せるというのも一種の行為だと認められると、その人の中で立場が対等になる。
決めるのが怖い人の場合
楽なのは、最初の一年だけ
全部こちらが決められる関係って、最初はすごく快適なの。揉めないし、通らない主張がない。 問題は、決める作業が一件も減らないこと。しかも年々増える。 恋人同士のうちは店と映画の話で済むけど、一緒に暮らす話、金の話、家族の話になると、量が違ってくる。
私って母親なのかな、と思った
「最初は楽だったの。全部私が決められるから。でも三年目で、あれ、私って母親なのかなって思った」 この一言を聞いた時の空気を覚えてる。彼女は笑ってなかった。 恋人に対して母親役をやらされていると気づいた瞬間、恋愛感情のほうが先に冷める。これは何度も見た。
決めさせる練習の、始め方
いきなり大きいことを決めさせると、固まって終わる。 始めるなら小さいところから。今日の飲み物はそっちが決めて、くらいの規模で。 そして、決めた結果に一切文句を言わない。まずい店に当たっても、次はもっといいとこ探そう、で終わらせる。 決める怖さの中身は、失敗した時に責められる想像だから。責められない経験を積むと、少しずつ動けるようになる。 一年くらいかかると思ったほうがいい。ただ、放っておいても勝手には直らない。
いじり方の、越えてはいけない線
好きと、削られていいは別
いじられて喜ぶから、と言って強い言葉を使い続けると、どこかで壊れる。 いじられるのが好きというのは、やりとりとして楽しいということ。自尊心を削られていいという意味じゃない。 この二つを同じものとして扱うと、ある日ぱたっと相手の反応が消える。
外ではやらない、という条件
先輩に言われた言葉がある。いじられ役は、外でやられたら終わりだ、と。 二人でいる時のいじりは、やりとりとして成立する。人前で同じことをやると、意味が変わる。 第三者がいると、いじられた側は観客の前で低い位置に固定されることになるから。しかも笑って受けるしかない。逃げ場がない。 これ、けっこう多くの人がやってしまう。場が盛り上がるからね。
本気で落ち込ませた、という話
「いじると喜ぶからさ、つい言い過ぎちゃって。一回、本気で落ち込ませたことがある」 その人は、それ以来いじり方を変えたと言ってた。 境目はどこか、と聞いたら、こう返ってきた。仕事とか、家族とか、本人が変えられないところは触らないことにした、と。 うまい線の引き方だと思う。変えられることをいじるのは冗談になるけど、変えられないことをいじるのは評価になってしまうから。
雑に扱われたいわけじゃない
欲しいのは、決めてもらった上での確認
ここを誤解すると、関係が一気に冷える。 委ねたい人が求めているのは、支配されることじゃなくて、決めてもらった上で大事にされている確認なんだよ。 決められるのは嬉しい。ただ、その決定の中に自分への配慮が入っているかどうかを、ちゃんと見てる。 雑に扱っていいと受け取ると、あっさり離れられる。
いじった後に、必ず戻す
現場でうまい客がやっていたことがある。 散々いじった後に、最後にちゃんと一言戻すの。今日楽しかった、とか、でも助かってるよ、とか。 あれがあるかないかで、いじられた側の残り方が全然違った。いじりっぱなしで終わると、そこだけが残る。 戻す一言は、たぶん十秒もかからない。
こちら側が、消耗しないために
全部を仕切らない
委ねられると嬉しくなって、つい全部やってしまう人がいる。 ただ、決定の量には限界がある。仕事で一日中決めて、家でも全部決めると、そのうち何も決めたくなくなる。 やらないことを先に決めておくといい。この分野には口を出さない、と決めて、多少うまくいかなくても手を出さない。
疲れた日は、こちらが委ねる側に回る
これ、やってみると関係が動く。 今日は何も決めたくないから、そっちが決めて。そう言ってみる。 委ねるのが好きな人は、そこでちゃんと頑張ろうとする。決めるのが怖い人は、固まる。 どっちのタイプかが一回で分かるし、疲れている時に休めるという実利もある。一石二鳥。
いじられて笑っていた夜のことを、たまに思い出す。 楽だった日と、きつかった日。何が違ったかというと、たぶん、その人が俺を下に置いて遊んでいたか、下に置いた上でちゃんと見ていたかの差だった。 同じ言葉でも、見られている時は疲れない。むしろ、その時間が好きだった。 Mな彼氏との付き合い方の答えがあるとしたら、強く出るかどうかじゃなくて、そっちなんだと思う。

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