ホストクラブの照明には、なぜか紫が多い。
赤だと下品に寄りすぎて、青だと店が冷えすぎる。間を取ったら紫になった。昔、オーナーがそう言ってた。紫の光は肌のアラを隠して、目の光だけを残すんだとか。本当かどうかは知らない。まぁ、ただの受け売り(笑)
その紫の光の下で、紫を選ぶお客さんを何人も見てきた。紫のネイル、紫のスマホケース、紫のワンピース。隣に座った子の小物が、全部紫だった夜もある。
紫を選ぶ人は、何かを隠してるように見える。何年も隣に座って、わかったことがひとつ。隠してるんじゃなくて、見せる順番を決めてるだけ。気づいた人にだけ、一枚ずつめくっていく。
紫が好きな人の特徴は、赤と青を同時に抱えてること
紫は、赤と青を混ぜないと生まれない色。燃える赤と、冷めた青。正反対の絵の具を、ひとつのパレットで練り続けてる人。紫好きを一言で表すなら、そんな感じ。
色だけで人を決めつけるのは、占いより雑。それでも、選ぶ色には、その人の今がにじむ。
熱いのに、熱く見られたくない
紫好きの子は、中身がけっこう熱い。怒るときも、好きになるときも、芯の部分は赤そのもの。なのに、それを表に出すのが苦手。だから青を足して、少し冷ましてから外に出す。
袖口からチラッと紫の裏地がのぞくジャケット、あれに近い。見えた人だけが得をする仕組み。
紫のブラウスの子が、トイレで泣いて、完璧なメイクで戻ってきた夜がある。目だけが、少し赤かった。あの夜の正解は、気づかないふり。
店の男たちにも、紫好きはいた。紫のスーツを着こなすのは、決まって自信家か、自信のなさを隠したいやつ。僕の見た限り、割合は半々くらい。どっちのタイプも、口説き文句は甘いのに、弱みを見せるのは付き合って半年たってから。紫が好きな男性も、中身は同じ二層でできてる。
人と同じだと、ちょっと居心地が悪い
紫って、昔から特別な人の色だった。学校で習った冠位十二階も、いちばん上の位は紫。ヨーロッパでも、紫の染料は貝から少しずつしか取れなくて、王様の色だったらしい。
そのせいか、紫好きには、みんなと同じが苦手な人が目立つ。流行りに背を向けるタイプとも違う。流行りの中から、自分だけの一本を選びたがる。限定品より、一点物。友達と服が被ったら、その服には二度と袖を通さない。そんな子も珍しくなかった。
持ち物にも、妙な共通点があった。香水を季節で変える。手帳はいまだに紙。おみくじは信じないって言いながら、大吉だけは財布にしまっておく。
メニューの端っこの、誰も頼まないカクテルを頼むのは、だいたい紫の子だった。バイオレットフィズとか。
疲れた時期ほど、なぜか紫に手が伸びる
疲れてる人ほど紫に惹かれる、なんて話がある。これ、身に覚えがあるんだよなぁ。
ホスト三年目、指名が急に途切れた一年があった。その年、気づいたらクローゼットの中が紫だらけ。シャツも、ネクタイも、なぜか全部紫!
ある夜、常連の子に言われた。
「最近、紫ばっか着てるね。疲れてるでしょ」
(え、バレてるんだが?)
図星すぎて、火をつけかけたライターを落としかけた。
結局、あの年を越えられたのは、あの一言のおかげだった気がする。見抜かれた瞬間、なんか肩の荷がひとつ下りた。その子はそれ以来、僕の服の色には一言も触れない。代わりに、店に来る回数が少しだけ増えた。指名が戻るたびに、紫のシャツを一枚ずつ手放していく日々。
紫が好き、は性格というより、その人の季節なのかもしれない。心が少しだけ背伸びしたい時期に、人は紫を手に取る。
どの紫が好きかで、性格はけっこう変わる
紫好き、でひとまとめにすると外す。僕はそれで一回、派手に外した。
紫が好きだという子の誕生日に、紫のバラを五十本。黒服に頼んで、とびきり濃い色をそろえてもらった。彼女は笑顔で花束を抱えて、帰り際にこう言った。
「ありがと。でもね、私が好きなのは藤の色なんだよね」
(まさかの色違い…)
紫なら何でも喜ぶ雑な男、と思われた気がして、その夜は一睡もできず。あの時の彼女の優しい笑顔が、かえって痛かった。五十本分の見栄が、全部空回り(泣)
赤と青、どっちの絵の具が多いか。白や黒をどれだけ足したか。その配合で、中身もずいぶん変わってくる。薄紫と濃紫は、同じ紫でもほぼ別人。大まかに言えば、薄い紫ほど人に合わせる力が強くて、濃い紫ほど自分の軸が太い。赤に寄るほど感情が前に出て、青に寄るほど頭が先に立つ。
ラベンダーや藤色が好きな人は、角を立てない名人
白をたっぷり混ぜた、やわらかい紫。ラベンダーや藤色が好きな人は、場の空気を読むのがうまい。意見はあるのに、ぶつける前に一回やわらげてから出す。
藤の花は、下に向かって咲く。この色が好きな人も同じで、人に甘えるより、黙って支える側に回りがち。優しいぶん、疲れをため込みやすい。付き合うなら、ありがとうを小まめに渡すくらいが、この色の人にはよく効く。
ちなみに僕は、実物の藤を見るまで、藤色をピンクの一種だと思い込んでた(笑)
青寄りの紫が好きな人は、頭で恋をする
青が勝ってる紫。江戸紫と呼ばれる、少し冷たい紫がこっち。
この紫に惹かれる人は、気持ちより先に頭が動く。好きになる前に、相手を長いこと観察する。店でも、会話の中身を誰より覚えてたのは、青っぽい紫のネイルの子だった。三ヶ月前に僕が言った適当な一言を、一字一句そのまま引用してくる。正直言って、怖い!
ただ、一度信頼した相手には、驚くほど一途。冷たく見えるのは、慎重なだけ。LINEは短いのに、誤字がひとつもない。口説くなら、勢いより筋の通った話のほうが響く。
赤寄りの紫が好きな人は、隠した情熱が濃い
赤が勝ってる紫。京紫、ワインに近い紫、マゼンタっぽい紫もこの仲間。
しっとりした色気と、隠しきれない情熱の持ち主が多い。赤を一滴だけ薄めて、紫の顔をしてる感じ。
恋をすると一気に深くなるし、そのぶん嫉妬も深い。放っておかれるのが、何よりこたえる。LINEの返事が半日遅れただけで、次の日、突然全身黒で現れた子もいた。このタイプに放置は禁物。
黒に近い深紫が好きな人は、自分だけの城を持ってる
黒を混ぜた、夜みたいに深い紫。背筋がピンと伸びた人が多い印象。
世界観が固まってて、他人に合わせて曲げない。店でも、照明の届きにくい奥の席を好んだ。ひとりの時間がないと、息が詰まる。そのくせ意外と、笑いのツボは浅い。
城の門は重い。門の前で気長に待てる人にだけ、内側から鍵が外れる。一回中に入れてもらえたら、あとは無防備そのもの。見てるこっちが心配になるくらいに。
紫が好きな人の恋愛傾向
恋が絡むと、紫の人の二面性は、いっそう目立つ。
好きになるまでが長くて、なってからが深い
紫の子は、恋のスタートが遅め。一目惚れもしない。というか、したとしても認めない。
時間をかけて、少しずつ相手を確かめる。そのぶん、好きになってからの深さは別格。ワインみたいに寝かせて、あとから効いてくるタイプの恋。
好きな紫の話を、向こうから詳しくしてくれるようになったらサイン。城の門は、もう半分開いてる。紫の子にとって、好きな色の話は、わりと奥のほうにしまってある話だから。
デートの日に、好きな紫を一点だけ身につけてくる子が何人かいた。ピアスとか、ハンカチの端とか。あれは、見つけてくれるか試す、小さな合図。
特別扱いに弱いのに、作られた特別には冷める
紫の子は、特別扱いに弱い。自分だけに向けられた一言、自分しか知らない顔。そういうのには、素直に心が動く。
ただ、作られた特別には、誰より早く気づく。店の営業トークを真っ先に見抜いたのも、紫の小物を持ってる子たちだった。君だけだよ、って口にした瞬間、目の色が一段さめる。
本物の特別は、言葉より手間で渡すほうが届く。三回前に一度だけ話した好きな花の名前を、黙って覚えてる。そういう手間は、どんな褒め言葉より効く。
冷めるときは、音もなく門を閉める
紫の子の冷め方は、拍子抜けするくらい静か。怒りもしないし、責めもしない。涙も見せず、ある日から返事の間隔が少しずつ延びていく。
店でも、紫のお客さんが離れるときは、いつもそうだった。最後の夜も普段どおりに笑って帰って、次の週からもう来ない。
気づいたときには、城の門は閉まってる。外から叩いても、まず開かない。雑に扱われた記憶は、紫の子の中で長く色あせない。
欲求不満って噂は、半分だけ当たってる
紫が好きな人は欲求不満、なんて噂がある。紫のドレスの子が来ると、下品な冗談を言う後輩もいた。あれは完全に的外れ。はぁ…今なら、あいつの口をふさぎに行く。
ただ、足りない何かを探してる人が紫に惹かれる、って部分は、たぶん当たってる。足りないのは刺激じゃなくて、わかってくれる人。赤も青も両方ある自分を、どっちかに決めつけずに見てくれる相手。自分の変なこだわりを、笑わずに面白がってくれる誰か。
ホストクラブで聞いた、紫を選ぶ女性たちの本音
紫を選ぶ理由を聞くと、みんな最初ははぐらかす。占い師っぽいって言われるのが嫌なんだよね、と肩をすくめた子もいる。本当の理由が出てくるのは、三杯目を過ぎたあたりから。夜の空に近い色だから、なんて詩人みたいな答えもあった。
本当は赤が好き。でも赤は必死に見えるから
「本当は赤が好きなの。でも赤って、必死な女っぽく見えるじゃん。だから紫」
紫のネイルに、一本だけワインレッドを混ぜてた子の言葉。
紫は、赤を着る勇気の一歩手前にある色。この子たちに赤を勧めるのは、たぶん違う。紫の中にまぎれてる赤を、見つけてあげるほうが喜ばれる。
その子は、店に来るのをやめる最後の夜だけ、真っ赤なドレスで現れた。似合ってたよ、と言えたかどうか。そこだけ、記憶があいまい。
紫の日は、話しかけられないのがいい
「紫の服の日って、変なナンパされないの。それがいいんだよね」
仕事帰りに寄ってくれてた、アパレルの子の本音。
紫には、ちょっとした結界みたいな力がある。近寄りがたさを演出してるつもりは、本人にはない。雑に近寄ってくる人を、ふるいにかけたいだけ。その網をくぐってきた人にだけ、次の一枚を見せる。
紫を着てる自分が、ちょっと好き
「紫が好きっていうか、紫を着てる自分が好きなのかも」
そう言って、自分で照れてた子がいた。
ナルシストっぽく聞こえそうだけど、あれは違う。好きな自分でいられる服を知ってるって、けっこうな強さ。紫は、あの子が自分を好きでいるための合言葉だった。
こういう子の前では、色の話より、紫を着てるときの顔を褒めてあげてほしい。
紫が好きな人との距離の縮め方
紫の人に近づくのに、派手な作戦はいらない。
センスを褒めるより、その紫を選んだ理由を聞く
紫の子に、センスいいね、はあまり響かない。言われ慣れてるから。
それより、なんでその色にしたのか聞いてみる。選んだ理由を話してるときの紫の子は、ほかのどの話題より楽しそうだった。
逆に、言わないほうがいい一言もある。変わってるね。意外と普通だね。紫って欲求不満なんでしょ。三つ目は論外として、前の二つも、紫の子には地味に刺さる。
バラの一件以来、僕は色のあるものを贈る前に、どの紫が好きか一回聞くようにしてる。聞かれた側は、覚えててくれた、と受け取るらしい。濃さを聞けない相手なら、紫一色のものより、紫が差し色で少し入ったものを選ぶ。外しても、傷は浅い。
急かさない。紫は、夕方の空の色だから
紫は、夕方の空の色でもある。昼が終わって、夜になりきる前の、ほんの短い時間。
紫の人の心も、たぶんそこにいる。明るい顔と暗い顔の、ちょうど境目。明るいね、も、クールだね、も、半分しか当たってない。
初めて二人で出かけるなら、昼より夕方。空の色が変わるのを一緒に眺めてるだけで、会話はけっこう続く。言い合いになった夜は、その場で白黒つけようとしない。紫の子は、一晩置いてから自分の答えを出すから。
紫が好きな女はめんどくさい、と元彼に切り捨てられた。そんな過去を打ち明けた子もいる。めんどくさいんじゃない。扱いの粗さに、人より少しだけ敏感なだけ。
店の紫の照明は、見せたくないところを暗く沈めて、見せたいところだけを浮かせてた。紫が好きな人は、たぶん自分にも、あの照明を当ててる。蛍光灯の白い光の下でも隣で笑っててくれる日が来たら、それが本当の付き合いの始まりなんだよね。

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