「それ、さっきも聞いた。今日三回目だよ」
軽くツッコんだ瞬間、その子の顔がぱっと明るくなった。
「でしょ?もっと言って」
(え、喜んでる…?)
店で何年も、いろんなお客さんにツッコんできた。たいていは、ちょっとむっとするか、笑って流すか。でも、たまにいる。ツッコまれた瞬間に、目がきらっと光る子が。
その子は、自分のことを、笑いながらドMと呼んでた。
元ホストとして、ドMな人をたくさん見てきた。見分け方は、わりとシンプル。軽くいじられたときに、顔が曇るか、輝くか。
ただ、ひとつだけ先に言っておきたい。冷たくされても離れられないのは、ドMとは限らない。そこを取り違えると、相手も自分も、少しずつすり減っていく。
ドMの見分け方は、いじられたときの顔を見る
ここで言うドMは、夜の話じゃなく、性格の話。いじられたり、頼まれたり、引っぱってもらったりすることに、喜びを感じる人のこと。
ツッコまれて、目が輝くか、曇るか
いちばんわかりやすいのは、軽くツッコまれた瞬間の顔。
ドMじゃない人は、少しだけ顔が曇る。笑ってても、目の奥がむっとしてる。ドMな人は、逆に目が輝く。もっと言って、の顔になる。
いじられるのは、構ってもらえてる証拠。ドMな人は、それを肌で知ってる。
店でも、ドMなお客さんほど、ツッコミのあとに次のボケを用意して待ってた。こっちが一回ツッコむと、三回ボケてくる。いじりのラリーが、いちばんの好物!
お願いされると、なぜか嬉しそう
ちょっとした頼みごとをしたときの反応も、わかりやすい。
これ取ってきて、と言われて、はーい、と弾むように立ち上がる。面倒な役回りを振られても、なぜか張り切ってる。
ドMな人にとって、頼まれるのは、必要とされること。お願いの数だけ、自分の居場所が増えていく感覚がある。
逆に、何も頼まれない日は、ちょっと元気がない。気をつかって全部こっちでやってあげると、かえって手持ちぶさたになる。
本物のドMは、受け身を自分で選んで楽しんでる
ここが、いちばん大事なところ。
本物のドMは、いじられるのも、頼まれるのも、自分で選んで楽しんでる。だから、嫌なことは、ちゃんと嫌と言える。度を越したいじりには、それは違う、と線を引ける。
受け身でいるのは、楽しいから。弱いからじゃない。そこを見誤ると、ただの雑な扱いになってしまう。
見分けるなら、いじられたあとに、自分からまた近づいてくるかどうか。楽しんでるなら、またボケてくる。傷ついてるなら、そっと距離を取る。
ドMな人に多い性格と行動
店で見てきたドMな人たちには、男女を問わず、いくつか共通点があった。
尽くすのが好きで、頼られると燃える
ドMな人は、尽くすのが好き。相手の好きな食べ物を覚えて、言われる前に用意しておく。予定は相手に合わせる。
しかも、それを苦にしてない。むしろ、頼られるほど元気になる。
尽くした分だけ、相手の中で自分の存在が大きくなる。その感覚が、ドMな人のエネルギー源。
店でも、ドMなお客さんは、ホストの誕生日を本人より先に覚えてた。プレゼントの好みも、聞かずにだいたい当ててくる。
追われる恋より、追いかける恋
ドMな人は、追われるより、追いかけるほうが燃える。
すぐに振り向いてくれる相手より、ちょっと手の届かない相手。返事がそっけない人に、なぜか惹かれる。手に入りそうで入らない時間を、楽しめる人たち。
逆に、最初から好き好き言ってくる相手には、意外とときめかない。そこが、ドMの恋のややこしいところ。
そのぶん、追いかけ続けて疲れてしまうことも多い。追いかける楽しさと、振り向いてもらえない苦しさ。その境目は、本人にも見えにくい。
きついノルマや厳しい環境ほど、張り切る
恋愛だけじゃなく、仕事にも出る。
厳しい上司の下で、なぜか伸びる。無茶なノルマを渡されると、目がギラッとする。部活の鬼コーチの話を、懐かしそうにする。
楽な環境より、少し負荷がかかってるほうが、ドMな人は生き生きする。
筋トレにハマる人にも、このタイプは多い。昨日より重いダンベルを持てた日が、いちばん幸せそう。
ツッコまれ待ちのボケが多い
ドMな人は、会話の中に、わざとツッコまれる隙を作る。
ちょっと的外れなことを言って、相手の反応を待つ。自分の失敗談を、ネタとして出してくる。いじってもらえる流れを、自分で作るのがうまい。
ボケたあとに、こっちの顔をちらっと見る。あれは、ツッコミの催促。
わざと変な柄の服を着てきて、なんだそれ、と言われるのを待ってる人もいる。ツッコミは、ドMな人へのいちばん手軽なプレゼント。
会話でわかる、ドMの見抜き方
普段の会話で、相手がドMかどうかを見抜くポイント。自分がドMか確かめたい人は、自分に置き換えて読んでみてほしい。
軽くツッコんだときの反応
いちばん簡単なのは、軽いツッコミ。もう、何回言うの、くらいの、愛のあるやつ。
ドMな人は、そこで嬉しそうに笑う。もう一回同じボケをかぶせてくることもある。ドMじゃない人は、ちょっと気まずそうにするか、話題を変えようとする。
LINEでも試せる。ちょっとした失敗談が送られてきたら、なにやってんの、と返してみる。ドMな人は、そこから会話が一気に盛り上がる。
ただし、相手が嫌そうだったら、すぐやめる。見抜くためのツッコミで、相手を傷つけたら本末転倒。
どっちがいい?と聞いたときの答え方
ごはんの店や、休日の行き先を、どっちがいい?と聞いてみる。
ドSな人は、すぐ決める。ドMな人は、決めてほしい、と言うことが多い。相手が選んだものに、ついていくのが心地いいから。
ただの優柔不断との違いは、決めてもらったあとの顔。ドMな人は、決めてもらえて、なぜか嬉しそう。
待ち合わせに遅れてきたときも、わかりやすい。遅い!と軽く怒られるのを、ドMな人はちょっと待ってる。
好きなタイプに、ちょっと強引な人が出てくる
好きなタイプを聞くと、ドMな人は、引っぱってくれる人、ちょっと強引な人、と答えることが多い。
漫画やドラマの好きなキャラも、ヒントになる。口は悪いけど面倒見がいい、みたいなキャラの名前が出てきたら、ほぼ確定(笑)
正直、ここがいちばん当たる。本人が自覚してなくても、好きなキャラの趣味は、だいたい嘘をつかない。
ドMとドSの違いと、相性
ドMを知るには、ドSと並べてみるとわかりやすい。
Sは主導権がほしい、Mは主導権を預けたい
ざっくり言うと、ドSは主導権を握りたい人。ドMは、主導権を預けたい人。
ドSは、自分で決めて、相手を動かすのが楽しい。ドMは、決めてもらって、それについていくのが楽しい。
だから、SとMは、うまくはまるとかなり相性がいい。ハンドルを握りたい人と、助手席が好きな人みたいなもの。どっちもMだと、店選びで、どっちでもいいよ、が永遠に続く。
仕事ではS、恋愛ではM。入れ替わる人も多い
SとMは、きっちり分かれてるわけじゃない。場面によって入れ替わる人のほうが、むしろ多い。
仕事ではバリバリ指示を出す人が、恋愛では甘えたいM。家ではおっとりしてる人が、趣味のチームでは鬼キャプテン。
店でも、普段は後輩をしごいてる鬼の先輩が、彼女からの電話にだけ、はい、はい、と小さくなってた。見てはいけないものを見た気がした。
一面だけ見て、この人はSだ、Mだ、と決めつけないほうがいい。
Mの人にとって、いちばんのSは優しい人
意外に思われるかもしれないけど、ドMな人が求めてるSは、ただ厳しい人じゃない。
いじったあとに、ちゃんとフォローする。無茶を振っても、最後は受け止める。相手をよく見てるからこそ、ちょうどいい加減でいじれる。
ドMな人にとって、いちばんのご褒美は、厳しさより、自分を見てもらえてること。いいSは、だいたい観察力のある優しい人。
店でいちばん指名が多かったのも、口は悪いけど、お客さんの変化に一番に気づく先輩だった。髪を切ったら、真っ先にいじってくる人。
ホストクラブで見た、ドMたちの本音
ドMを自称するお客さんは、店にけっこういた。ホストの中にも。
昼間は命令する側だから、ここでくらい言われたい
冒頭の、ツッコまれて目が輝いた子の話の続き。
聞けば、昼間はメーカーの課長。部下は十人以上いるらしい。
「昼間は命令する側だから、ここでくらい言われる側になりたいの」
ずっとハンドルを握ってる人ほど、たまには助手席に座りたくなる。彼女のドMは、責任から一瞬だけ降りるための、息抜きだった。
その子は、店では徹底していじられ役。でも帰りのタクシーでは、運転手さんに道順をてきぱき指示してた。スイッチの切り替えが、見事だった。
もっと上げろって言ってくださいよ
ホストの後輩にも、ドMがいた。
締め日が近づいて、店長に売り上げの数字を詰められるほど、なぜか目が輝く。会議のあとで、僕にこう言ってきた。
「もっと上げろって言ってくださいよ。燃えるんで」
(いや、自分で燃えてくれ…)
詰められてる最中も、なぜかうっとりしてた(笑)でもそいつ、半年後には上位の常連になってた。ドMの負けず嫌いは、たまに最強。
優しくされると、なんか怖いの
一方で、ドMっぽく見えて、まったく違う子もいた。
「優しくされると、なんか怖いの。冷たくされてるほうが、落ち着く」
担当にそっけなくされるほど、通う回数が増えていった子。本人も、私ドMだから、と笑ってた。
でも、あの笑い方は、冒頭の課長の子とは違った。楽しんでる顔じゃなく、慣れてしまった顔。
ドMは、楽しいから受け身を選んでる。この子は、怖いから受け身でいるしかなかった。外から見ると、同じ形に見えてしまうのが厄介なところ。
この子の担当は、僕だった。
ドMっぽく見える寂しさに、つけこんでいた僕の話
冷たくするほど、通ってくるお客さんがいた
ホスト二年目、僕はオラオラ営業を試してた。わざとそっけなくして、たまにだけ優しくする。店の上の人間に教わったやり方。
まさか、冷たくするほど通ってくるお客さんが出てくるとは。それが、さっきの、優しくされると怖いと言った子。
最初は、この子はドMなんだ、と思ってた。違った。小さい頃から、優しさのあとには必ず何か悪いことが起きた。だから、冷たくされてるほうが安心できる。そういう子だった。
それ、いちばんやっちゃいけない相手だ…
ドMの楽しさじゃなく、寂しさに値段をつけてた。それに気づいた夜から、そのやり方はやめた。売り上げは、がっつり落ちた。
叱られて、ちょっと嬉しかった僕
そんな僕にも、たぶん軽いドMの気はある。
店を辞めてから付き合った人に、よく叱られた。コップ出しっぱなし。靴下は裏返しのまま洗濯機に入れない。
ある日、いつものように叱られて、思わず笑ってた。
「なんで嬉しそうなの」
真顔で引かれた(泣)
でも、理由は自分でもわかってた。叱られるのは、見てもらえてるってこと。誰にも何も言われない部屋より、叱ってくれる人がいる部屋のほうが、ずっとあったかい。
あれ以来、叱られるたびに、ちょっとだけ口元がゆるむ。直したほうがいいのは、靴下よりそっちかもしれない。
ドMな人と、うまく付き合うために
最後に、ドMな恋人や好きな人がいる人へ。
いじりは、愛情が見える分量で
ドMな人をいじるなら、愛情が見える分量で。
二人きりのときの、軽いツッコミや、ちょっと強めのお願い。そのくらいがちょうどいい。人前で笑いものにするのは、いじりじゃなくて、ただの恥。
それと、見た目や、本人が気にしてることはいじらない。ドMでも、触れられたくない場所はある。
いじったあとは、ちゃんとフォローする。ありがとう、助かった、そういうとこ好き。まぁ、このひと言があるから、ドMな人は安心してまたいじられに来る。
やめて、で必ず止まる
SとMの関係が遊びとして成り立つのは、やめて、と言えば必ず止まる信頼があるとき。
ドMな人ほど、相手が止まってくれるとわかってるから、安心して身を預けられる。止まらない相手は、もうSじゃなく、ただの怖い人。
止まるきっかけは、言葉だけじゃない。ちょっと嫌そうな顔をしたら、それも立派なやめて。そこに気づける人が、本当の意味でいいS。
これは、性格の話でも、それ以外の話でも同じ。やめての一言が通らない関係は、どんな名前をつけても、遊びにはならないからね。

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