俺が店に出ていた頃、毎回わざわざ壁際の奥の席を指定するお客さんがいた。理由を聞くと、知り合いに見られたら何を言われるか分からないから、だって。
自分で決めて、自分のお金で来てる。なのに背中だけは、ずっと入口のほうを向いてた。あの丸まった背中が、なんか今でも頭から離れない。
恋愛でも同じことが起きるんだよな。
彼氏を友達に見せたら微妙な顔をされた。年の差を指摘された。SNSに二人の写真を上げようとして、指が止まる。
正直、人の目を一ミリも気にしない人なんて、店でも外でもほとんど見かけなかった。気にしないように見える人は、審査員席に座らせる相手を自分で選んでる。違いはそれだけ。
恋愛で人の目が気になるのは、勝手に審査されている気がするから
ホストクラブで聞いた、彼氏を誰にも紹介できない本音
店で女の子たちが話す恋愛の話って、半分くらいは周りの目の話だった。
印象に残ってるのは、IT企業で働いてた子の一言。
「今の彼、友達に会わせたら絶対反対される。だから彼の話はここでしかしないの」
俺はその彼氏に会ったこともないのに、なぜか一番の理解者みたいな顔をして相づちを打ってた。冷静に考えるとおかしな話。ホストが彼氏の唯一の味方って(笑)
もう一人、30代の常連さんはこんなことを言った。
「今まで、好きな人より、友達に羨ましがられる人を選んできた気がする」
そう言いながら、グラスの中の泡をしばらく眺めてた。
羨ましがられる恋愛は、外から見る分には綺麗。だけど中に住んでる本人が落ち着かないなら、それはモデルルームで暮らしてるようなものなんだよな。
審査員席に座らせる人を、自分で選んでいい
26歳の彩花さんは、彼氏の話を友達にしたとき、なんか違う気がすると言われて揺れた一人。でも彼といると安心できるし、普通に楽しい。だから、この関係は自分と彼のもので、友達の多数決で決めるものじゃないと割り切ったんだって。
29歳の拓海さんは、マッチングアプリで出会った相手のことを職場で話したら、危ないよと即答されたそう。彼は深く説明せず、自分で判断したとだけ返した。以来、職場で恋愛の話はほぼしていない。
35歳の沙織さんは再婚を考えている相手について、家族からもう少し慎重にと言われた。前の結婚のこともあって、その言葉は軽く流せなかった。それでも相手と何度も話し合って、自分が納得できる関係かどうかを確かめてから前に進んだ。
三人とも、外の声を完全にシャットアウトしたわけじゃないんだよね。
誰に点数をつけてもらって、誰には客席で見ててもらうか。そこを自分で決め直しただけ。友達も同僚も家族も、席がないわけじゃない。ただ、採点のペンまでは渡さない。
元ホストの俺が、人の目に振り回されまくってた頃
売上ボードの前で、毎晩自分の値段を確かめてた
ホストクラブには、だいたい売上や指名の順位が貼り出される。新人の頃の俺は、あの紙を見るたびに心臓がドキッとしてた。
順位が下がった日は、廊下ですれ違う先輩の目がぜんぶ自分を笑ってるように見えた。実際は、誰もそこまで見てなかったはずなのに。
問題は、その癖をプライベートの恋愛にまで持ち込んだこと。
当時、店とは関係ない女の子と付き合ってた。昼間に二人で繁華街を歩くとき、俺は彼女に、ちょっと離れて歩いてと頼んだ。お客さんに見られたら営業に響く。それが言い訳。
本音を言えば、俺が見られたくなかったのは、ホストの顔じゃない自分のほうだった気がする。
三回目くらいで、彼女が立ち止まった。
「私と歩くのが恥ずかしいの?」
焦った。違うって言いたかったのに、口から出たのは、いや、そういうわけじゃなくてさ、という一番ダサい返事。
(何がそういうわけじゃないんだよ、俺)
一か月後に振られた。理由は聞かなくても分かってたよ。
周りは自分が思うほど、こっちを見てない
27歳の亮さんの話を聞いたとき、昔の自分を見てるみたいで少し恥ずかしくなった。
彼は彼女と街を歩くとき、昔の友達に見られたくないと身構えてしまうタイプ。でも彼女は平気で手を繋いでくる。で、ある日本当に知り合いと鉢合わせした。
相手は普通に挨拶して、それで終わり。冷やかしも、詮索もなし。
人は自分が思ってるほど、他人の恋愛を細かく見てない。心理学ではスポットライト効果なんて呼ばれてて、自分にだけライトが当たってる気がする錯覚のことを指すんだとか。
俺も辞めてから一度、彼女と歩いてるときに元お客さんとすれ違ったことがある。心臓が縮んだのに、向こうは軽く会釈して、そのまま人混みに消えた。
……あの数秒で、何年分の自意識が空回りしてたんだろうな。
ステージの上に立ってるつもりでいたけど、客席にはほとんど誰も座ってなかった。そのことに気づくと、肩の力がだいぶ抜けるんだよ。
人の目を気にしないコツは、話す相手と話す量を絞ること
全部話すから、全員に口を出される
彩花さんが割り切ったあとにやったことは、すごく地味だった。必要以上に詳しく話さない。それだけ。
彼のスペックも、ケンカの中身も、いちいち友達に報告しない。すると不思議なことに、口を出される回数も減っていったそう。
拓海さんも同じで、自分の判断を尊重してくれる人にだけ、恋愛の話をするようにしてる。人の目を完全に無視してるわけじゃなく、見せる窓を小さくしたって感じかな。
恋愛の話を回覧板みたいに回すと、そりゃハンコを押す人の数だけ意見がついて返ってくる。
店でもそうだったなぁ。彼氏の愚痴を、いろんな卓で、いろんなホストに話すお客さんほど、毎回違うアドバイスを持ち帰って混乱してた。一人に深く話す子のほうが、帰り際の顔がずっと晴れやかだった。
話す相手を減らすのは、逃げじゃない。雑音のボリュームを、自分の手で下げてるだけ。
相談しすぎて動けなくなる前に、自分の感覚を一回だけ試す
24歳のみおさんは、告白する前に友達に相談したら、反対寄りの意見ばかりだった。それでも気持ちは引かなかったから、相談そのものをやめて、自分で決めた。結果、付き合えた。
面白いのはその後で。自分の選択が間違ってなかったと実感してからは、似た場面でも周りの声があまり刺さらなくなったと言ってた。
23歳の奈々さんも近い。好きな人を誘う前に友達の意見を聞きすぎて、足がすくんだ時期がある。友達には脈がなさそうと言われたけど、本人はなんか違う気がした。結局、自分から誘ってうまくいった。
これ、筋トレに近い。
人の意見に逆らって動いて、結果を自分の目で見る。一回でもそれを経験すると、他人の言葉の重さがちょっと軽くなる。
もちろん、うまくいかないこともある。ただ、その場合でも自分で決めて転んだなら、少なくとも誰のせいにもしないで済むじゃん。
友達の予想が外れるのを見るのって、ぶっちゃけちょっと気持ちいいし!
年の差や再婚、SNSで周りの声が大きくなるとき
二人の足並みがそろってる関係は、外野に強い
32歳の健太さんは、年下の彼女と付き合い始めたとき、年齢差が気になると周りから言われた。最初はデートの場所を選んだり、写真を上げるのを控えたりしてたらしい。
変わったきっかけは、彼女本人がまったく気にしてなかったこと。周りの声より二人がどう思うか。そこに目を向けたら、隠す理由がなくなった。
30歳の優子さんは、交際を始めたばかりの頃、SNSに写真を上げるのをためらってた。非公開にしたり、タグを付けなかったり。
でも彼は平然としてたから、少しずつ上げるようにした。反応はまちまち。大きな問題は特に起きなかった。
人の目を気にしてる間は、目の前のデートを半分しか楽しめない。優子さんはそう気づいて、自分のペースで共有するようにしたそう。
二人の話に共通してるのは、まず相手と温度を合わせてから外を見てるってこと。外野がどれだけ騒いでも、隣の人と足並みがそろってれば、案外揺れないもんでさ。
逆に、二人の間に温度差があると、他人の一言がそこに入り込んでくる。チクッと刺さるのは、だいたいその隙間から。
守りたい人がいるなら、優先順位を先に決めておく
38歳の隼人さんは、離婚後に新しい相手と付き合い始めたとき、周囲の視線がかなり気になったそう。子どもがいるから、どう思われるかを考え出すと止まらない。
彼がやったのは、急がないこと。相手との関係をゆっくり育てて、子どもにも少しずつ紹介していった。
周りの評価より、子どもと相手がどう感じるか。順番をそう決めたら、迷う場面が減っていったという。時間が経つにつれて、自分の選択を堂々と人に話せるようになったと聞いて、なんだか嬉しかった。
沙織さんの言葉も、ここに置いておきたい。
人の目を気にしすぎると、自分の人生を他人に預けてしまう。だから今は、最終的に一緒にいるのは自分たちだという目線で考えるようにしてる、と。
世間って、顔のない株主みたいなもの。口は出すけど、責任は取ってくれない。守りたい人がいるときほど、その株主総会に律儀に出席する必要はないんだよ。
人の目より、自分の後悔のほうを怖がってみる
41歳の大輔さんと、声をかけられなかった俺
大輔さんは若い頃、人の目を気にしすぎて、好きな人にアプローチできなかった。
今は失敗してもいいと思うようにしてる。誰かにどう思われるかより、自分が後悔しない選択をしたい、と。人の評価なんて一時的なもの。そう割り切ったら動きやすくなったと話してた。
この話、耳が痛い。
ホストになる前、バイト先に好きな子がいた。周りにからかわれるのが嫌で、結局一度も食事に誘えないまま、彼女はバイトを辞めていった。
からかってきた連中の顔は、もう一人も思い出せない。なのに、誘えなかった彼女の横顔だけは妙にはっきり覚えてる。皮肉なもんだ。
人の目は、その場では大きく見える。でも十年経つと、たいてい消えてる。後悔のほうは、なぜかしぶとく残る。
最後まで隣にいるのは、客席の人じゃない
俺がいた店では、閉店の時間になるとフロアの照明が一気に明るくなった。さっきまで華やかに見えた客席が、ただの椅子の集まりに戻る瞬間。あの光景が、人の目の正体にいちばん近い気がしてる。
ショーが終われば、観客は帰る。感想を言う人もいれば、言わない人もいる。どっちにしても、翌日には自分の生活に戻ってく。
残るのは、隣に立ってた人だけ。
友達の意見を聞くのはいい。家族の心配も、ちゃんと受け取っていい。ただ、点数をつけるペンだけは渡さないこと。
握りしめてたそのペンをスッと置けたら、隣の人の手の温度が、やっと分かるようになるから。

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