冷やかし客の特徴と見分け方は?

四人組が入ってきて、席について、メニューを回して、そのうちのひとりがスマホで店内を撮った。撮り方が、観光だった。

その夜は結局、シャンパンどころか追加のドリンクも出なかった。二時間いて、帰り際に全員で写真を撮って、楽しかったですーと手を振って消えていった。

残ったのは片付けの皿と、俺の二時間。

腹は立たなかった。立てる資格がなかったというほうが近い。入ってきた瞬間に分かってたのに、途中から分からないふりをしたのは俺のほうだから。

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見分けようとしている間、こっちも見られている

サインは態度じゃなく、質問の向きに出る

声が大きいとか、値段を最初に聞くとか、そういう表面の癖は当てにならない。本気で買う人ほど失礼な聞き方をするし、買わない人ほど行儀がいい。

見るのは質問の向き。矢印が自分の側を向いているかどうか。

これいくらですか、は店に向いた問い。私だとどのお酒が合いますかね、は自分に向いた問い。自分に向いた問いが出た時点で、その人の頭のなかでは、もう持っている場面が動き出してる。

一時間喋って、自分の状況をひとつも出さない人。ここがいちばん分かりやすい線だった。

詳しい人が買うわけじゃない

やたら詳しい客がいる。銘柄も相場も分かってて、会話が盛り上がる。こっちも楽しい。

で、帰る。

詳しさは、買う意思とは別の場所にある趣味だった。情報を集める楽しさで完結してる人は、集め終わった時点で満たされてる。むしろ全然わかんないんですけど、と笑ってた人が、翌週ボトルを入れてたりする。

ざらっとしたよ、これに気づいたとき。磨いてきた商品知識、いったい何のためだったんだろって。

買わない人が落としていく言葉の癖

未来の場面を口にしない

また来る人の話には、手に入れたあとの景色が混ざる。友達に話したらどうとか、次に来るときはとか、時間が勝手に先へ進んでる。

冷やかしの会話は、ずっと今にいる。今この瞬間の感想しか出てこない。すごいですね、きれいですね、へー。

感想は無料だから、いくらでも湧く。

決める人の名前が出てこない

その人ひとりで決められる立場なのか。ここを確かめないまま一時間使うのが、俺のずっとやってた失敗。

旦那に相談してから、そういう一言が最後の最後に出てきて全部ひっくり返る。本人は隠してたわけじゃない。聞かれなかったから言わなかっただけなんだよね。

早めに軽く投げとく。また来られる感じですか、と。ここでカチンとくる人は、たぶん最初から来ない。

文字のやり取りなら、返信の速さより質問の数

これは店の外でも同じだと思ってる。

問い合わせが来て、返信が爆速。感じがいい。でも質問が一個も増えない。丁寧なお礼だけが往復する。これ、だいたい動かない。

本気の人は質問が増えていく。在庫は、期限は、変更はきくのか。聞くことが増えるのは、頭のなかで自分の予定に組み込み始めてる証拠。逆に最初の一通で全部聞き切って満足してる人は、情報が欲しかっただけ。

一年通ってきて、一円も落ちなかった子

名前を呼ばれに来ていた

週に一回来て、必ず俺を指名して、安いセットで二時間いて帰る。同伴もない。ボトルもない。でも毎週いる。

若かった俺は、いつか来ると思ってた。積み上げれば返ってくると本気で信じてた。

一年経って、何も起きなかった。

ある夜、彼女がぽつりと漏らした一言で全部わかった。

「ここに来ると、私の名前を呼んでくれる人がいるから」

欲しかったのは商品じゃなくて、呼ばれることだった。俺は一年かけて、無料の名前呼び係をやってたわけ(笑)。

失ったのは売上のほうじゃない

金が立たなかったのは、まぁいい。痛いのは、その二時間ずっと他のテーブルに行けなかったこと。

冷やかしのコストって、断れなかった時間に何ができたか、そっちで数える。気づいたのが二十七のとき。遅すぎた。

情けなかったよ。頑張ってる気だけになってたから。

現場で聞いた、冷やかし側の言い分

見学のつもりだった人ほど、あとで落ちる

ここがややこしい。

「怖いもの見たさで来ただけだったのに」

そう言いながら、半年後に月十万落としてた人がいる。ひとりじゃない。だから初回で切り捨てると、いちばん太くなる客を自分の手で捨てることになる。

見学の人は、二回目に来るかどうかで割れる。二回目が本番。これを覚えてから、初回の判定をやめた。

買う気がない人ほど、愛想がいい

これも現場の実感でさ。

こないと決めてる人は、どこかに罪悪感があるから終始ニコニコしてる。褒めてくれるし、帰り際に、また来ますね、と必ず置いていく。

本気で検討してる人は途中から表情が消える。頭のなかで計算が始まるから。黙り込む時間が出てきたのは脈が切れたんじゃなくて、天秤に載った合図。

ここを読み違えると、笑ってくれる人に全力を注いで、黙った人を放置することになる。なんか、何回もやった。

切らずに、置いておく

三回のうち一度だけ条件を出す

いきなり切るのはもったいない。無限に付き合うのは自滅。だから回数で線を引いてた。

三回のうち一回、こちらの条件を口に出す。次はこういう形でお願いできますか、それだけ。押さないし、繰り返さない。

反応で全部見える。ふわっとかわす人。正面から断る人。乗ってくる人。断ってくれた人がいちばんありがたいんだよ。時間が返ってくるから。

断りやすい質問を早めに置く

今日はどう考えてますか、こういう聞き方をすると嘘の答えが返ってくる。悪気なく、その場をなめらかにする答えが出る。

だから逆をやる。今日は決めない日ですよね、とこっちから先に言ってしまう。

決めない前提で肩の力が抜けた人は、けっこう本音を出す。ほんとは来月のボーナスまで待ちたくて、とか。それが出た時点で、もう冷やかしじゃない。来月の客。

化ける瞬間は、静かにくる

値段を二度聞いてきたら、ほぼ本気

一度聞いた金額を、後からもう一回確認してくる。確度がかなり高いサイン。

一度目は情報として聞いてる。二度目は自分の財布と並べてる。数字の意味が変わってる。

すーっと空気の温度が動くのが分かる瞬間があって、あれは何度経験してもいい。

帰り際の長さで割れる

冷やかしの人は帰り際が長い。写真を撮って、お礼を並べて、名残惜しさを丁寧に演じてくれる。

本気の人はあっさり消える。じゃあまた、で終わり。次があるから、締めくくる必要がないんだよ。

見送りの三十秒だけ観察するようにしてから、読みが当たる率が跳ね上がった。

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