男性が「全部欲しい」と思う心理とは?愛と独占欲の危ない境目

全部欲しい、と女の人に言ったことがある。しかも二回。

一回目は店の中、二十三のとき。売上が伸びなくて焦ってた月で、どこかのドラマで聞いたような台詞を、そのまま拝借したのさ。お前の全部が欲しいんだよ、と目を見て言った。彼女は照れて笑って、その夜いちばん高いボトルを入れてくれた。

二回目は店の外。二十六のころ、本気で好きになった人に向かって、気づいたら口から出てた。

うまくいったのは、嘘だった一回目のほう(泣)。本気だった二回目で、俺は相手を怖がらせた。

同じ言葉なのに、中身がまるで違う。

目次

男性の全部欲しいは、言ってる本人もよくわかってない

ラーメン屋の全部のせと同じ、決めきれない男の注文

腹を空かせてラーメン屋に入ると、券売機の前で全部のせを押したくなる。何が食べたいか決まってないから、全部!

男の全部欲しいも、出どころはかなり似てる。

相手のどこに惹かれてるのか、自分でもまだ言葉にできてない。顔なのか、声なのか、笑うタイミングなのか。わからないまま、好きの圧だけが上がっていく。行き場のない熱が、全部という大雑把な言葉に流れ込む。

全部欲しいと言われた時点では、目の前にいるのは、まだ何もわかってない男。そのくらいに受け取っといていい。うれしくなるのは自然だけど、その一言に人生を預けるには早すぎるわけで。

知らない場所があるだけで、落ち着かなくなる

好きになりたての男は、相手のことを地図みたいに眺めてる。

もう知ってる場所と、まだ白いままの場所。この未踏の部分が、とにかく気になってしょうがない。休みの日に何をしてるのか、昔どんな人と付き合ってたのか、スマホの向こうで誰と笑ってるのか。

その空白を片っ端から塗りつぶしたい衝動に、男は全部欲しいという名前をつける。

男って、知らない部分に、見えない敵を住まわせがち。元彼がまだ居座ってるかもしれないし、まだ見ぬライバルが潜んでる可能性だってある。

ただ、地図って、全部塗り終わったら広げる理由がなくなるんだよな。

全部欲しいと思う男性心理は、三つに分かれる

腹が減ってるだけの全部

よく見かけるのが、これ。

付き合い始めの三か月くらいに出てくる全部は、ほぼ空腹でできてる。会うたびに触れたがるし、連絡も途切れさせない。相手の予定を、一日単位で知りたがる。

まぁ、悪気はないし、嘘でもない。空腹は、いつか満たされる。腹がふくれた男は、急に箸の進みがゆっくりになる。

冷めたように見えて、実は落ち着いただけ、ってことも珍しくない。そこで女の子の側が、全部欲しいって言ってたくせに、と焦り出すと、話がこじれていく。

店で、コースターの端を爪でめくりながらこぼした子がいた。

「全部あげたのにさ。ある日、もういいやって顔されたの」

満腹の男に、追加の皿を出し続けちゃったんだろうな。

不安を埋めたい全部は、ざるで水をすくってる

厄介なのは、こっち。

自信のない男ほど、相手の全部を把握して安心しようとする。誰と会ったか、何時に帰ったか、元彼とはまだ繋がってるのか。ひとつ確かめれば、次の穴が見えてくる。安心したくて調べるほど、気になる場所はむしろ増えていく。

ざるで水をすくってるようなもんでさ。いくらすくっても、手のひらには何も残らない。

別の夜に、こう話してくれた子もいる。

「全部欲しいって言われて、泣くほど嬉しかったの。その次の週から、スマホ見せてって言われるようになった」

彼女は笑ってたけど、グラスを持つ手がかすかに震えてた。聞いてるこっちの胸の奥まで、ちりちり焼ける感じ。

面倒なところまで引き受ける全部は、声が小さい

三つめは、めったにお目にかかれない。

この全部を口にする男は、たいてい声が小さい。それに、中身が妙に具体的。寝起きのむくんだ顔も、親とうまくいってないとこも。落ち込むと三日くらい黙り込む癖まで、全部込みでいい。そんな言い方になる。

結婚が決まった常連の子が、プロポーズの言葉を照れながら教えてくれたことがある。お前の機嫌が悪い日は、全部俺がもらう。それだけだったらしい。

欲しがってるのは、相手の時間や過去じゃない。相手が抱えてる重たい荷物の、半分。

ずしっとくる言葉なのに、言われた側はなぜか身軽になる。本気の全部って、たぶんそういう形をしてるんだろうね。

本気で全部欲しくなった俺が、やらかしたこと

元彼の名前まで知りたくなった夜

二回目の話に戻る。

相手は、店とは関係のない、花屋で働いてた人。付き合って二か月、俺は完全におかしくなってた。

彼女のSNSのフォロワー欄を、男だけ一人ずつ開いていく。元彼の名前を聞き出して、顔まで検索した。友達の結婚式の二次会に行った夜は、二十分おきにLINEを送った。既読がつかないだけで、部屋の中を何往復もする始末。深夜三時、画面の青い光の中で、自分が何をしてるかわかってるのに、指が止まらない。

(何やってんだ俺…いや、でも知っときたいし)

ある晩、酔った勢いで言った。お前の全部が欲しい、と。一回目と、一字一句同じ台詞。

彼女は小さく笑って、冗談みたいに返してきた。

「全部あげたら、私、どこに住めばいいの」

あの時は、意味がわからなかった。うまいこと言うなぁ、くらいに流して、ビールを飲み干したのを覚えてる。

手に入れたと思った瞬間から、足りなくなる

一か月後、突然彼女から短いLINEが来た。ちょっと息がしづらい、とだけ。

画面を見た指先が、ひやっとした。それで終わり。

正直言って、あの二か月の記憶は、ほとんど液晶の光でできてる。

結局、俺が欲しかったのは彼女じゃなくて、彼女を失わないという保証だった。そんなもの、この世のどこにも売ってないのに。

全部欲しいと言いながら、彼女が差し出してくれたものは、ひとつも味わってなかった。花の名前を教えてくれたこと。帰り道、わざと遠回りしてくれたこと。そういうのを全部素通りして、まだもらってない部分ばかり数えてた。

手に入れたつもりになったとたん、足りない場所ばかりが目につく。はぁ…あれは恋じゃなくて、在庫確認だった。

愛情か独占欲かは、彼が自分の全部を差し出すかで割れる

自分のスマホは伏せたまま、相手の全部を欲しがる

見分けるのに手っ取り早いのは、向きを見ること。

相手の全部を欲しがる男が、自分の全部も同じだけ差し出してるか。スマホを見せろと言う男の、自分のスマホはテーブルに伏せたまま。お前の過去を知りたいと言いながら、自分の昔の話になると、口が重くなる。

こういう片道通行の全部は、愛情の顔をした所有欲。

本気で分け合いたい男は、聞かれる前に自分から扉を開けてくる。やりすぎて、若干引かれるくらいに(笑)。

過去の人数を聞くか、子どものころの話を聞くか

質問の中身でも、けっこう差が出る。

元彼は何人か、どこまでしたか、どんな男だったか。こういう質問は、相手を知りたいんじゃなくて、比べて測りたいだけ。測って、自分が勝ってれば安心する。

子どものころ何が好きだったか、なんで今の仕事を選んだのか。こっちを聞いてくる男は、空欄を埋めたいんじゃない。その人ができあがるまでの道のりに、純粋に興味がある。

同じ知りたがりでも、物差しを持ってくる男と、望遠鏡を持ってくる男がいる。

友達との予定に、言葉じゃなく機嫌で返事をしてくる

引いておきたい線が、もう一本。

友達とご飯に行く、と伝えたとき、返ってくるのが言葉じゃなく機嫌の男。既読のまま黙る。帰ってきたら不機嫌。次から、行くって伝えること自体が面倒になっていく。そうやって少しずつ、彼女の世界が彼ひとりぶんの広さまで縮んでいく。

これは全部欲しいじゃなく、全部取り上げたい、に近い。

店で聞いた本音で、いまだに喉に刺さってるのがある。

「スマホ見てこない彼氏って、私に興味ないのかなって思っちゃうんだよね」

耳が痛かった。俺たちがやってた営業のひとつが、まさにそれだったから。他の店に行ったと聞けば、拗ねてみせる。返信が遅ければ、寂しかったと責める。嫉妬を演じるのが、いちばん手堅い口説き方だった。まさか、それが女の子たちの中で、愛情を測る目盛りとして残るなんて。当時は考えもしなかった。

束縛を愛情の証拠として受け取るクセは、一度つくと抜けにくい。怖いと感じたり、会う人を制限されたりしてるなら、ひとりで抱え込まないで。信頼できる人か相談窓口に、話を持っていっていい。遠慮するような話じゃない。

全部欲しいと言われたら、渡し方はこっちで決めていい

全部を渡したあと、男の顔は三通りに変わる

店で色んな子の話を聞いてきて、はっきり言えることがある。全部を受け取った男の、その後の顔。

腹が減ってただけの男は、満ち足りた顔で、だんだんよそ見を始める。本人に悪気がないぶん、たちが悪い。

不安で全部を欲しがってた男は、受け取ったそばから、次の確認に取りかかる。スマホの次は、位置情報。その次は、友達の連絡先。何を渡しても、顔が晴れない。

面倒ごとまで引き受けるつもりだった男だけが、受け取ったあとに静かになる。もう何も欲しがらない。代わりに、渡されたものを落とさないように、両手で抱え直す。

どの顔になるかは、渡してみるまでわからない。だから一気に渡すのは、賭けとしては分が悪すぎる。

じゃあ、あなたの全部もちょうだい、と笑って返す

言われたその場で、うれしくて頭が熱くなるのは仕方ない。

笑いながら、こう返してみる。じゃあ、あなたの全部もちょうだい、と。

反応ひとつで、相当なことが透ける。いいよ、何から聞きたい?と、迷わず開いてくる男。一瞬固まって、なんかトイレに立つ男。俺の全部なんて大したもんじゃないよ、と謙遜のふりで蓋をする男もいる。

差し出す気のない男の全部欲しいは、恋というより、もはや取り立て。

鍵のかかった引き出しを、ひとつ残しておく

渡し方の話もしておく。

全部を一度に渡さなくていい。いや、正確には、渡しちゃいけない。

心の中に、鍵のかかった引き出しをひとつ残しておく。女友達との時間でも、ひとりで観る映画でも、誰にも話してない昔のことでもいい。彼が入ってこられない場所を、ひとつだけ。

意外と、本気の男ほどその引き出しを大事にする。開けてほしいとは言っても、こじ開けはしない。鍵穴を覗き込んで合鍵を作ろうとする男は、さっきの三種類でいえば二つめ。

引き出しが残ってる人は、いつまでもどこか謎めいてる。その謎が、男の空腹を長持ちさせる。隅に余白を残した地図は、何年たっても畳まれないから。

花屋の彼女とは、あれきり会ってない。彼女が働いてた店の前を通ると、今でも少しだけ歩く速度が落ちる。

もし今、誰かに同じ熱を伝えるなら、全部なんて大きな言葉は使わない。明日の分だけ、またちょうだい。言うとしたら、せいぜいそのくらい。

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