姫ポジの特徴は?姫ぶる女と、放っておいても大事にされる女

ホストクラブでは、来てくれた女の子を全員、姫と呼ぶ。入店初日に叩き込まれる決まりごと。

なのに、開店前の裏の通路で、今日は姫来てるぞ、と誰かが小声で言う。それは、たった一人のことだった。

大金を落とす太客じゃない。月に二回、安めのボトルで二時間だけ飲んで帰る、三十代前半の事務職の人。ここではリコさんと呼んでおく。

彼女が来る日は、席の取り合いが起きた。ヘルプに入りたがる新人まで出てくる。

なんでだ?当時の俺には、まるでわからなかった。気になって、半年くらい、リコさんの一晩を横から観察し続けた。

目次

姫ポジの特徴は、席に着く前から出ている

名乗らなくても、周りが椅子を引いてくれる

まず、姫ポジは肩書きじゃない。自分で名乗った時点で、それはただの姫ぶり。

周りが勝手に椅子を引いてくれて、気づけば取り皿が回ってくる。重い荷物を持とうとしたら、誰かの手が先に伸びてる。本人は何も要求してないのに、そういう席がいつの間にか用意されてる状態。それを世間では姫ポジと呼んでる。

ホストクラブの姫は、店が配る呼び名。姫ポジは、周りの人間が差し出す椅子。似てるようで、出どころが真逆なんだよな。

入口で一拍、立ち止まれる

リコさんの一晩は、ドアをくぐった瞬間から違ってた。

たいていの女の子は、入ってくるなり店の奥へ歩き出す。案内される前に、自分で席を探しにいく。リコさんは、入口で一拍だけ止まる。誰かが気づいて寄ってくるのを、笑顔のまま待ってる。

コートを脱ぐときは、半歩だけ振り返って。受け取ってくれる手が来るのを、知ってる動き。

正直言うと、最初はただの勿体ぶりに見えた。何様だよ、くらいに。でも観察を続けるうちに、あれは周りに出番を渡す間なんだと気づいた。

これ、デートでもそのまま出る。ドアを開けてもらう前に、自分で開けて先に行っちゃう人。エスカレーターで、彼よりいつも一段上に立つ人。悪いことじゃないけど、周りの手が出るタイミングを、毎回自分で消してる。

注文の仕方ひとつで、大事にされるかどうかが決まる

なんでもいい、を口にしない

何飲む?と聞いたとき、リコさんの返事はいつも早かった。

今日は甘くないのがいいな。炭酸は控えめで。

これだけで、こっちは動ける。正解の方向が見えてるから、迷わず作れる。作ったものが当たると、ちょっと誇らしい。

逆に、なんでもいいよ、は優しさの顔をした丸投げ。言われた側は、外れたらどうしよう、と身構える。何を出しても、反応が薄いのも怖い。

店で、こう漏らした子がいる。

「なんでもいい、って言うの、ずっと優しさだと思ってた」

彼氏にお店選びを任せておいて、連れていかれた先で微妙な顔をして、ケンカになる。それを何回も繰り返してたらしい。自分の好みを先に渡すのは、わがままじゃない。相手に的の場所を教えてあげる親切じゃん。

頼みごとが小さくて、具体的

リコさんが何かを頼むとき、中身は毎回小さかった。

グラス、冷えてるのに替えてもらえる?ライム、もうひと切れほしいな。

どれも、頼まれた側が百パーセント叶えられるサイズ。叶えたら、ありがとうが返ってくる。この小さな成功を、一晩で何回も積ませてくれるわけ。

姫ぶる人の頼みは、だいたい大きくて曖昧。なんか楽しませてよ、とか、私の気持ちわかってよ、とか。叶えようがないから、頼まれた側は負け続けるしかない。

連敗した男は、そのうち頼まれる前に逃げるようになる。

してもらったあとの反応が、次の一回を連れてくる

ありがとうに、相手の名前と手柄がくっついてる

リコさんのありがとうには、いつもおまけがついてた。

ありがとう、ハルトくん。この濃さ、ちょうどいい。

名前と、どこがよかったか。この二つがつくだけで、ただのお礼が表彰状に変わる。言われた新人は、裏でほくほくしてた。俺も含めて(笑)。

ありがとうを言わない人は、まぁさすがに少ない。差が出るのは、そのありがとうが誰の何に向いてるか。もじもじしながら、すみません、ありがとうございます、を早口で重ねる子もいた。丁寧なんだけど、受け取った感じがしない。謝られながら感謝されると、手伝った側は、悪いことしたのかなって気分になる。

渡したバトンを、取り返さない

意外と見落とされがちなのが、これ。

何かを頼んだあと、相手の手際が悪くても、リコさんは口も手も出さない。新人がボトルの封を切るのに手間取ってても、あ、いいよ私やる、とは言わない。頬杖をついて、楽しそうに眺めてる。

リレーの途中で、渡したはずのバトンを奪い返されたら。走ってる側は、たまったもんじゃないっしょ。

器用な子ほど、これをやる。見てられなくて、つい手を出す。本人は助けてるつもりでも、男の側には、任せてもらえなかった、って記憶だけが残る。二回目から、手は差し出されなくなる。

失敗した男に恥をかかせない姫が、いちばん大事にされる

俺がシャンパンを噴き出させた夜

入って二年目くらいの、最高に調子に乗ってたころ。

リコさんの誕生日に、店からのサービスでシャンパンを開けることになった。格好よく開けてやろうと、コルクを押さえる親指をわざと緩める。

しゅわっ!泡がボトルの口からあふれて、テーブルの上を川みたいに流れた。リコさんのバッグの、すぐ手前まで。

終わった…マジで終わった

周りのテーブルの視線が刺さる。顔が熱くて、手が震える(泣)。リコさんはというと、おしぼりを二本つかんで、泡を拭きながら笑ってた。

お祝いっぽくて、いいじゃん。

そのあと、別のホストが通りかかったときにも、彼女はわざわざ俺のほうを見てから言った。今日の開け方、派手でよかったよね、って。俺の失敗は、その場で演出に書き換えられてた。安堵で、膝から力が抜けていく。

見栄を張りたい男の、面子の扱い方

あの時から、俺はリコさんのためなら何でもやる人間になった。我ながら単純すぎ。

男って、役に立ちたい生き物なんだよね。で、役に立とうとして、わりと頻繁にしくじる。そのしくじったときの相手の顔を、驚くほど覚えてるもの。

呆れた顔をされた記憶は、次に手を貸すのをためらわせる。笑って拾ってもらった記憶は、次も手を貸したくさせる。

人前で男の失敗を指摘しない。やり直しを求めない。笑うなら、一緒に笑う。姫ポジの人は、騎士の面子の置き場所を知ってる。

姫ぶる女と姫ポジの違いは、機嫌の置き場所にある

不機嫌で周りを動かす姫は、城を追われる

姫ぶる人にも、一時的に人は集まる。

ただ、集め方が違う。機嫌を悪くすることで、周りを動かす。黙り込む、ため息をつく、突然帰ると言い出す。みんなが慌てて機嫌を取りにいくと、一瞬だけ姫の席に戻れる。

でもそれ、恐怖で回してる王国なんだよ。家来たちは、隙を見て逃げ出す準備をしてる。

リコさんの機嫌は、ほとんどリコさんの中で完結してた。仕事で最悪な日だった夜も、ちょっと疲れてるから今日は静かに飲むね、と先に言う。その一言で、こっちは何をすればいいかわかる。機嫌を誰かに直させるんじゃなく、機嫌の取扱説明書を先に渡してくれる人。

女の子を敵に回す姫ポジは、長く持たない

グループの中の姫ポジで、明暗が分かれるのがここ。

姫ぶる人は、同性がいる場所で、男の視線を独り占めしようとする。椅子取りゲームみたいに、女の子同士で席を奪い合う。

店に来てた子が、友達の話を苦笑いしながらしてくれた。

「あの子、男がいる席だと声が半音上がるんだよね」

こういうのは、男より女の子のほうが先に気づく。気づかれたが最後、その人の姫ポジは女性陣から包囲される。

リコさんは、椅子取りゲームにそもそも参加しない。隣のテーブルの初めて来た子に、そのネイルかわいいね、と声をかける。黙ってる子がいたら、話を振って輪に入れる。自分に集まった光を、周りに配って歩く感じ。女の子からも嫌われないし、店の誰ひとり、あの人は姫ぶってる、とは言わなかった。

お金で座った姫の席は、レンタルでしかない

ホストクラブならではの話もしとく。

シャンパンタワーを建てれば、その夜は間違いなく店の主役になれる。全員が集まって、コールがかかって、名前を叫ばれる。姫ポジを、お金で一晩だけ借りるようなもの。

ある常連の子は、空になったタワーのグラスを見上げながら言った。

「お金払ってる間だけ姫なの、わかってるよ。わかってて来てる」

はぁ…何も返せなかった。

借りた王冠は、支払いが止まれば回収される。恋愛でも理屈は変わらない。プレゼントや尽くしで手に入れた特別扱いは、差し出すのをやめた日に終わる。結局、リコさんが月二回の安いボトルで座ってた席は、誰にも取り上げられなかった。

いつも侍女ポジで終わる人へ

先回りをやめた日に、手が差し出される

店には、姫ポジと正反対の場所にいる子もよく来てた。

「私、どこに行っても姫じゃなくて、侍女なんだよね」

飲み会では取り分け係。旅行では予約係。彼氏の家では、気づいたら洗い物をしてる。みんなから感謝されてるし、頼りにもされてる。それでも、誰も彼女の荷物を持とうとしない。

侍女ポジの子は、周りの必要を先に読みすぎる。誰かが気づく前に、全部終わらせてしまう。手伝おうとした人の出番が、そのたびに潰れる。

たまに、先回りをやめてみる。取り皿が足りなくても、すぐには立たない。三秒待つ。その三秒で、誰かが動く。動いてくれた人に、名前つきのありがとうを渡す。これを何回か繰り返すと、差し出される手の数が、少しずつ増えてくる。

一日にひとつ、頼みごとを置いてみる

もうひとつは、頼む練習。

侍女ポジが長い人ほど、頼むのが下手になってる。頼むくらいなら、自分でやったほうが早い。その早さが、ずっと彼女たちを侍女の席に縛りつけてきた。

一日にひとつでいい。高い棚の箱を取ってもらうとか。瓶のふたを開けてもらうとか。駅まで一緒に歩いてほしい、と口に出すのでもいい。できないことじゃなく、できるけど頼む、が練習になる。

頼んで、待って、名前を呼んでお礼を言う。最初はむずがゆいかもしれない。それは姫ぶりとは違う。相手に、役に立つ喜びを分けてるだけ。

半年観察した最後に、リコさんに直接聞いたことがある。なんで、みんなにあんなに大事にされるんですか、って。

彼女は少し考えてから、笑って言った。

「秘密なんてないよ。ここでは、姫の練習してるだけ。会社でも家でも、普段は全部自分でやる係だから」

まさか。店でいちばん姫だった人が、外では侍女だったなんて。

あれを聞いてから、飲み会でひとり黙々と取り分けてる子を見ると、つい思っちゃう。あの子もたぶん、椅子を引かれるのを待ってる、姫の予備軍なんだろうなって。

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