「男の人ってさ、甘えるとき、なんであんなに遠回りなの?」
その子は、ため息まじりにグラスを回した。
聞けば、彼氏は落ち込むと、決まって耳かきをねだってくるらしい。仕事の愚痴は一言も言わない。何かあったのか聞いても、なんでもない、の一点張り。ただ黙って、彼女の膝に頭を乗せて、耳を差し出してくる。
「しかも、耳、全然汚れてないんだよ」
(耳かきは、口実か…)
ヘルプについてた後輩と顔を見合わせて、二人で吹き出した。笑いながら、僕は内心ギクッとしてた。まさか、よその彼氏の話で、自分の古傷をつつかれるとは。
女性に甘えたい男性心理を調べてる人は、たぶん、甘えてくる誰かのことが気になってる。急に子どもっぽくなる彼は、何を考えてるのか。甘えられるのは、本命だからなのか。どこまで受け止めればいいのか。反対に、ちっとも甘えてこない彼に、少し寂しさを感じてる人もいると思う。
店で何年も、女の子たちから彼氏の話を聞いてきた。ついでに、男としての自分の甘え方も、さんざん振り返る羽目になった。
たどり着いた答えは、わりとシンプル。男が女性に甘えたくなるのは、一日中着てる鎧を、笑われずに脱げる場所がほしいから。耳かきは、その鎧を脱ぐための、ちょっと遠回りな言い訳。
女性に甘えたい男性心理は、鎧を脱げる場所がほしいこと
甘えたい、なんて口に出す男は、まずいない。それでも、男はかなり甘えたがってる。理由をほどくと、だいたい三つに分かれる。
外では一日中、ちゃんとした男をやってる
仕事ではミスできない。後輩の前では、頼れる先輩。友達の前でも、弱いところはなるべく見せない。
誰かに命令されたわけじゃない。ただ、小さい頃から、男なんだから泣くな、の空気を吸って育ってる。
正直、ホストなんてその最たるもの。卓では盛り上げ役、ヘルプでは気配り役。閉店後のロッカーで、ネクタイをゆるめた瞬間に、やっと肩が下がる。
店でいちばん頼られてたNo.1の先輩も、休みの日は彼女の膝から一日じゅう動かないって、酔ったときに白状してた。
鎧は、着てるだけで重い。甘えたいって気持ちは、その重さを一回下ろしたい、のほうが近い。
甘える相手は、驚くほど選んでる
男は、誰にでも甘えるわけじゃない。
弱いところを見せて、笑われないか。ほかの誰かに話されないか。ケンカのときに、あの時あんなこと言ってたくせに、と持ち出されないか。口には出さないけど、男はそこをかなり慎重に見てる。
店の男たちも、本気の弱音を吐く相手は、お客さんじゃなかった。たいてい、地元の幼なじみか、閉店後に寄るラーメン屋の大将。
だから、男の甘えは、付き合って少したってから出てくることが多い。最初の何ヶ月かは、鎧を着たまま。ある日、急に子どもっぽい顔を見せてきたら、それは審査に通った合図かもしれない。
欲しいのは世話より、何もしなくていい時間
甘えたい男は、お母さんを探してる。そう思われがちだけど、それは半分しか当たってない。
男が欲しいのは、ごはんを作ってもらうことや、服をたたんでもらうことより、何もしなくていい時間のほう。面白いことを言わなくていい。頼りになる顔もしなくていい。黙ってソファに沈んでても、誰にもがっかりされない。
それがお母さんっぽく見えるのは、何もしなくても受け入れてもらえた最初の記憶が、たいてい母親だから。探してるのは母親そのものより、あの頃の安心のほう。
耳かきの彼も、たぶん耳の掃除がしたかったわけじゃない。膝の上で、何者でもない時間がほしかった。
男が甘えたいときに出す、わかりにくいサイン
男は、甘えたい、とはまず言わない。代わりに、行動のほうがちょっとずつ変になる。
急に子どもっぽくなる
語尾が伸びる。くだらないダジャレが増える。普段は絶対に使わない、変なスタンプを送ってくる。
三十すぎの男が、急に小学生みたいになる瞬間がある。あれは、たいてい甘えたいサイン。大人の顔を、いったん下ろしてる最中。
ここで、何それ気持ち悪い、と返されると、男は一瞬で鎧を着直す。笑うのはいい。引かないであげてほしい。
用もないのに、そばをうろうろする
キッチンに立つと、なぜかついてくる。ソファの隣が空いてるのに、わざわざ肩がぶつかる距離に座る。洗面所で歯を磨いてると、鏡の中、後ろにぬっと立ってる。ホラー映画か(笑)
特に用はない。本人も、なんでそこにいるのか説明できない。
散歩帰りの犬が、飼い主のあとをついて回るのとだいたい同じ。そばにいるだけで、勝手に充電されてる。
離れてるときは、これがLINEになる。用件のない、今なにしてる?が増えたら、それは画面越しのうろうろ。
弱音を、冗談の箱に入れて渡してくる
もう会社なくならないかなー、とか。俺、明日には溶けてるかも、とか。
笑いながら言うから、聞き流しやすい。でも、その冗談の箱の中には、本物の疲れが入ってることが多い。男は弱音を裸のまま出せないから、包装紙で包んでから渡してくる。
店でも、卓でいちばん笑ってたホストほど、閉店後は一人で黙ってた。冗談の量が増えた日は、箱の中身を、そっとのぞいてあげてほしい。
のぞき方は、簡単。笑ったあとに一拍おいて、ほんとに疲れてる?と聞くだけ。また冗談で返ってきたら、今日はまだ箱を開けたくない日。
食べたいものの話が増える
あれ食べたい。この前作ってくれたやつ、また食べたい。お腹すいた、を一日に何回も言う。
食べ物の話は、男にとっていちばん口にしやすい甘え方。作って、とは言えなくても、食べたい、なら言える。
ほしいのは、料理そのものより、前に食べたものを覚えててもらえる感じ。自分のために誰かが台所に立ってくれる、その時間のほう。
風邪をひいたときの、おかゆ食べたい、なんて男の甘えの最上級(笑)
甘えてくるのは、本命だから?
甘えられると嬉しい。その一方で、気になる。これって、本命だからなの?
だらしない顔は、気を許した相手にしか見せない
先に結論を言うと、甘えはかなり本命寄りのサイン!さっきの話のとおり、男は甘える相手を、ものすごく選んでるから。
寝ぐせのまま出てくる。鼻声で電話してくる。何でもない話を、だらだら続ける。かっこつける必要のない相手にしか、男はこういう顔を見せない。
遊びの相手の前では、男は案外、最後までかっこつけてる。だらしなさは、気を許した証拠。
付き合う前から甘えてくる男なら、ほかの女の子の前でも同じ顔をしてるかを見る。誰にでも甘えてるなら、それはただの甘え慣れ。自分の前でだけなら、かなり期待していい。
ただし、甘えのあとに、決まってお金や頼みごとがくっついてくるなら話は別。それについては、あとで、僕の恥ずかしい過去と一緒に話す。
甘えてこない男が、冷めてるとは限らない
反対に、ちっとも甘えてこない彼に、寂しさを感じてる人もいると思う。
甘えてこない男の多くは、甘え方を知らないだけ。弱いところを見せた経験が少なくて、どこから鎧を脱げばいいのかわからない。僕も、まさにそっち側の人間だった。
甘えていいよ、と言われると、男は逆に固まる。それより、隣をぽんぽんと叩いて、ここ空いてるよ、くらいの軽さで誘われるほうが、ずっと乗りやすい。
先に、こっちから小さく甘えてみるのも手。甘えていい空気は、片方が先に作ると、もう片方もまねしやすい。甘え下手の男ほど、これにはマジで弱い。
ホストクラブで聞いた、甘えてくる彼への本音
店では、女の子たちの彼氏の話をよく聞いた。甘えてくる彼の話は、のろけと愚痴が、だいたい半分ずつ。
私の前でだけ、赤ちゃん言葉になるの
「職場では鬼の課長らしいのに、私の前でだけ赤ちゃん言葉になるの。どうしたらいい?」
相談の形をしてたけど、顔は完全ににやけてた。
それ、のろけですよね…
部下が見たら腰を抜かす顔を、彼女だけが知ってる。それだけで、彼の中での彼女の居場所がよくわかる。
どうしたらいい?の答えは、たぶん、そのまま笑ってればいい。なんかもう、聞いてるこっちが照れた。
甘えられるのは嬉しい。でも、お母さんじゃない
「甘えられるのは嬉しいよ。でも、私、お母さんじゃないんだよね」
同棲して二年目の子の本音。最初はかわいかった彼の甘えが、いつのまにか、靴下は脱ぎっぱなし、ごはんは出てくるのを待つだけ、に変わってたらしい。
甘えと、生活の丸投げは別物。甘えは心を預けることで、丸投げは家事を押しつけること。
彼女を疲れさせてたのは、甘えのほうじゃなく、丸投げのほうだった。
その子は結局、甘えるのはいいけど、靴下は別ね、と彼に伝えたらしい。次に店に来たとき、靴下の脱ぎっぱなしはだいぶ減った、と笑ってた。
付き合って二年で、初めて弱音を聞いた
「付き合って二年で、初めて彼が弱音を吐いたの。仕事、もう辞めたいって」
グラスを持つ手が、少し震えてた。嬉しかったのか、怖かったのか、本人にもわからないみたいだった。
何て返したのか聞いたら、何も言えなくて、ただ隣に座ってた、と。
それで、正解だったと思う。男の弱音は、アドバイスより、聞いてもらえたことのほうが長く残る。二年ぶんの鎧が、あの夜、一枚だけ外れた。
甘えるのが下手だった僕の話
えらそうに書いてるけど、僕は甘えるのが、とにかく下手だった。正確に言えば、営業の甘えだけは得意だった。
営業の甘えなら、いくらでもできた
ホストの世界には、締め日がある。月の売り上げが締まる、勝負の数日。
その時期、僕はお客さんに甘えてた。今月、ちょっとやばいんだよね。ため息まじりに、弱った顔をつくって。
締め日の三日前になると、電話の声を決まって一段落とした。電話の向こうで、相手が心配してくれてるのがわかる。わかってて、やってた。
今思い出しても、喉の奥が苦くなる。あれは、甘えの形をした請求書。弱さを見せるふりをして、シャンパンを入れてもらうための台本だった。
台本の甘えは、いくらでも上手にできる。本物じゃないから、恥ずかしくもない。
膝まで、一センチずつ寄っていった夜
困ったのは、店を辞めてから。本物の甘え方が、まるでわからない。
仕事で大きなミスをした夜。付き合ってた人の部屋で、並んでテレビを見てた。膝枕してほしい。でも、言えない。
しかたなく、テレビを見るふりをしながら、少しずつ彼女のほうへずれていった。一センチ、また一センチ。
「さっきから、何センチずつ寄ってきてるの」
(バレてた…)
彼女は笑って、自分の膝をぽんぽんと叩いた。
「どうぞ」
頭を乗せた瞬間、胸の奥に詰まってた何かが、ふっとほどけた。営業の甘えは、あんなに簡単だったのに。本物は、たった数十センチ寄るのに、三十分かかった(泣)
その夜、ミスの話は、結局ひと言もしなかった。膝の上で、どうでもいいテレビの話をしてただけ。それで、十分だった。
甘えさせ上手な女性が、やってること
甘えさせ上手、と聞くと、何でもやってあげる優しい人を想像しがち。店で見てきた甘えさせ上手は、ちょっと違った。
弱音は、解決しないで最後まで聞く
男が弱音を吐くと、つい解決策を出したくなる。転職サイト見てみたら?上司に一回言ってみたら?
ありがたい。でも、男がその瞬間に欲しいのは、作戦会議じゃないことが多い。
最後まで聞いて、それはしんどかったね、で止める。どうしても何か言いたくなったら、ごはん食べた?くらいがちょうどいい。解決は、本人が鎧を着直してから、自分でやる。男って、ほんと面倒な生き物。
甘えた瞬間を、からかわない
男が甘えた直後は、本人がいちばん照れてる。そこで、え、赤ちゃんみたい、とからかわれると、次の甘えは半年先まで延期!
笑うのはいい。ただ、ばかにする笑いじゃなく、かわいいね、の笑いで。
ほかの人の前で、彼の甘えん坊な一面を話のネタにするのも、なるべく控えたい。あの顔は、二人の間だけのもの。
膝は貸す。でも、全部はやってあげない
甘えられると、なんでもしてあげたくなる。ごはんも、洗濯も、予定の管理も。
ただ、全部やってあげると、甘えはだんだん丸投げに変わっていく。お母さんじゃない、とこぼしてた子の彼みたいに。
膝は貸す。でも、靴下は自分で拾ってもらう。甘えさせ上手は、甘えていい場所と、自分でやる場所の線を、さらっと引ける人。
甘えと依存の境目
甘えは、男にとって必要な休憩。ただ、休憩のつもりが、いつのまにか別のものに変わることもある。
甘えは休憩、依存は引っ越し
甘えと依存の違いを一言で言うなら、休憩と引っ越し。
甘えは、少し休んだら、また自分の足で外へ出ていく。依存は、そのまま住みついて、お金も、機嫌も、生活もまるごと預けてくる。
会えない日を責める。自分の機嫌を、相手の予定より優先させる。決めごとを、全部まるごと任せてくる。このへんが続くなら、休憩じゃなく引っ越しが始まってる。
見分けるポイントは、甘えのあとに何が来るか。元気になって仕事に戻っていくなら、それは甘え。お金貸して、が続くなら、それはもう甘えじゃない。締め日の僕の台本と同じ、請求書のほう。
甘えすぎる彼には、ここまでを先に言う
彼の甘えが重くなってきたら、黙って全部受け止めるより、先に線を言葉にしたほうがいい。
今日は疲れてるから、膝は三十分だけね。週末はいくらでも甘えていいけど、平日は自分でがんばって。
男は、線を引かれると意外と安心する。どこまで甘えていいかわかれば、そこまでは遠慮なく甘えて、そこから先は自分で立てるから。まぁ、言われた直後は、ちょっとだけ拗ねるけど。

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