「ねえ、恋愛ってどうやったら上手くいくの?」
閉店間際、常連の子が、カバンからノートを取り出した。本当に、ノートだった。表紙には、恋愛戦略、と書いてある。
中には、びっしりと文字が並んでた。LINEは三時間あけて返す。誘いは二回に一回断る。好きって言うのは、三回目のデートまで我慢。
これ、ホストの営業マニュアルとほぼ同じだ…
ページをめくっていくと、最後のページだけ、小さな字でこう書いてあった。
疲れた。
恋愛はどうやったら上手くいくのか。先に、元ホストとして言えることがある。駆け引きは、効く。ただし、店の中でだけ!
何年も、恋愛がうまくいく二人と、うまくいかない二人の話を聞いてきた。続く二人に共通してたのは、テクニックじゃなかった。恋愛を上手くやろうと、してなかったこと。
恋愛が上手くいく人は、恋愛を上手くやろうとしてない
変な話に聞こえるかもしれない。でも、店で見てきた限り、これがいちばん大きな分かれ道だった。
駆け引きで始めた恋は、駆け引きを続けないと保てない
返信をわざと遅らせる。追われたら引く。相手を少し不安にさせて、気持ちを引き寄せる。ホストの仕事は、こういう技の積み重ねだった。
効くのは、本当。ただ、駆け引きで始まった恋には、やっかいなおまけがついてくる。駆け引きをやめた瞬間に、相手の熱も下がる。
相手が好きになったのは、駆け引きをしてる自分。だから、ずっと演じ続けるしかない。店なら、閉店の時間が来る。恋愛には、閉店がない。
お客さんにも、彼氏に駆け引きを仕掛けてる子は多かった。三時間あけて返信するために、三時間スマホを握りしめてる。駆け引きって、仕掛けてる側のほうが消耗する。
頑張るほど空回りするのは、相手より正解を見てるから
恋愛を頑張ってる人ほど、頭の中が正解でいっぱいになる。このLINE、送っていいのかな。今の返事、重くなかったかな。気づけば、送信ボタンの上で親指が十分止まってる(笑)
そのとき、見てるのは相手じゃなくて、正解のほう。相手が何を考えてるかより、どうすれば正しいかばかり気にしてる。
相手からすると、目の前にいるのに、どこか別の場所を見られてる感じがする。頑張れば頑張るほど、その距離が開いていく。
上手くいく恋は、相手の前で楽にいられる恋
じゃあ、上手くいく恋って何なのか。店で何百組もの話を聞いて、たどり着いた答えはシンプル。相手の前で、楽にいられる恋。
楽しい、じゃなくて、楽!黙ってても気まずくない。すっぴんでも平気。弱音を吐いても、引かれない。
楽しい恋は、最初の数ヶ月を盛り上げてくれる。でも、何年も続く二人を支えてるのは、たいてい、楽のほう。
店でも、長く続いてる二人の話は、だいたい地味だった。休みの日に、同じ部屋で別々の本を読んでる、とか。でも、その地味な話をするときの顔が、いちばん幸せそうだった。
恋愛が上手くいく人に共通すること
楽にいられる恋を作れる人には、いくつか共通点があった。
自分の機嫌を、自分で取れる
恋愛が上手くいく人は、自分の機嫌の電池を、相手に充電してもらおうとしない。
彼の返事が遅い日も、自分の予定で一日を楽しめる。落ち込んだ日は、好きな音楽をかけて、湯船につかって、自分で自分を立て直す。
店でも、恋愛が長続きしてる子ほど、自分だけの楽しみを持ってた。週末のパン屋めぐり、ひとりカラオケ、植物の水やり。彼がいてもいなくても続いてる習慣。
相手に機嫌を預けないから、相手も気楽にいられる。機嫌を自分で取れる人の隣は、だいたい居心地がいい。
小さな気持ちを、その日のうちに言葉にする
嬉しかった。ちょっと寂しかった。今の一言、少し引っかかった。
恋愛が上手くいく人は、こういう小さな気持ちを、その日のうちに言葉にする。小さいうちなら、軽く言える。相手も、軽く受け取れる。
ためこんで、ためこんで、ある日まとめて爆発する。うまくいかない恋は、たいていこのパターン。気持ちは、小銭のうちに払っておくのがいい。
相手を、変えようとしない
付き合ったら変わってくれるはず。私がなんとかすれば、この人も変わる。
この期待は、だいたい叶わない。人は、誰かに変えられるより、自分で変わりたくなったときにしか変わらない。
恋愛が上手くいく人は、相手を変えようとしない。そのかわり、合わないところとどう付き合うかを考える。洗濯物のたたみ方が違うなら、自分の分だけ自分でたたむ。そのくらいの軽さで。
相手の話を、最後まで聞ける
意外と大事なのが、これ。恋愛が上手くいく人は、相手の話を最後まで聞ける。
途中で、それって結局こういうこと?とまとめない。自分の話にすり替えない。アドバイスを急がない。
最後まで聞いてもらえた人は、この人には話していいんだ、と思える。それが積み重なると、二人の間に、言いにくいことも言える道ができる。
店で指名が長く続くホストも、話す量より聞く量のほうが多かった。聞くのがうまい人は、どこに行っても好かれる。
恋愛が上手くいかないときに、よく起きていること
反対に、恋愛がうまくいかないとき、何が起きてるのか。店で聞いた話には、いくつかのパターンがあった。
好きになるほど、自分がいなくなる
好きな人ができると、相手の好みに全部合わせてしまう。服も、音楽も、予定も。気づけば、自分が何を好きだったのか、思い出せない。
相手が好きになったのは、もともとのその人だったはず。合わせるほど、相手が好きになった人が、どんどん消えていく。
彼の好きなバンドのライブに一年通ってた子が、別れた次の日に、実は一曲も好きじゃなかった、と笑ってた。笑ってたけど、目は少しだけ悔しそうだった。
好きな人に合わせるのは、半分まででいい。残りの半分は、自分のままで。
相手の気持ちを、確かめすぎる
私のこと好き?本当に?前と変わってない?
不安になると、つい確かめたくなる。でも、確かめる回数が増えるほど、相手は答えるのに疲れていく。同じ質問を何度もされると、自分の気持ちが信用されてない気がしてくるから。
不安の答えは、相手の口から何度聞いても、なかなか埋まらない。埋まらないのは、相手の言葉が足りないからじゃなく、不安の穴のほうが深いから。
確かめたくなったら、一回だけ自分に聞いてみる。今、何が不安なんだろう。答えが、相手じゃなく自分の中にあることも多い。
前の恋の答案で、今の相手を採点してる
前の彼は、毎日電話をくれた。前の彼女は、記念日を全部覚えてた。
前の恋の答案を持ったまま、今の相手を採点してしまう人は多い。でも、今の相手は、前の恋のテストを受けてない。
採点されてる側は、何をしても減点される気がして、だんだん何もしなくなる。前の答案は、引き出しにしまっておきたい。
続く二人は、ケンカしないんじゃなく戻ってこられる
長く続く二人は、ケンカをしない二人だと思われがち。でも、店で聞いた話は、ほとんど逆だった。
長続きする夫婦は、仲直りのきっかけ作りがうまいらしい
アメリカに、たくさんの夫婦を何十年も調べた研究者がいる。その人によると、長続きする夫婦は、ケンカをしないんじゃなくて、ケンカの途中やあとに、仲直りのきっかけを作るのがうまいらしい。
ちょっと冗談を言って空気をゆるめる。お茶いれるけど飲む?と声をかける。そういう小さな一手が、関係をつなぎ止めてる。
ケンカの数より、戻ってこられるかどうか。そっちのほうが、ずっと大事。
ケンカの勝ち負けより、二人の味方でいる
ケンカになると、どっちが正しいかで勝負したくなる。でも、恋愛のケンカで勝っても、だいたい何も手に入らない。
続く二人は、ケンカの最中でも、どこかで二人の味方でいる。相手に勝つためじゃなく、二人がまた笑えるように話してる。
店で、長く続いてる夫婦の話を聞くと、ケンカの話がちゃんと出てくる。でも、どの話も、最後は笑い話で終わってた。
相手が悪い、と思った瞬間に、一回だけ深呼吸する。私たち、どうしたらいいかな、と主語を二人に変える。それだけで、ケンカの行き先が変わる。
ごめんとありがとうは、短いほど届く
謝るとき、言い訳を足すほど、ごめんは軽くなる。ごめん、でも、の、でも、から先は、相手の耳には入ってない。
ありがとうも同じ。長い感謝より、その場の一言のほうが残る。ごはんおいしかった。迎えに来てくれて助かった。
続く二人は、このふたつの言葉を、ケチらずに、短く、何度でも言ってる。
言葉にするのが照れくさいなら、ごめんの代わりに、相手の好きなプリンを一個買って帰るのでもいい。続く二人は、そういう小さな一手を、それぞれ持ってる。
ホストクラブで聞いた、恋愛の本音
店では、恋愛の相談を本当によく受けた。うまくいく恋も、うまくいかない恋も、だいたい本音は閉店間際に出てくる。
頑張れば頑張るほど、好きな人が遠くなるの
「頑張れば頑張るほど、好きな人が遠くなるの。なんでだろうね」
付き合っては、半年で終わる。それを何度も繰り返してた子の言葉。
話を聞くと、毎回、最初からものすごく頑張ってた。手料理、サプライズ、完璧な返信。相手が何かする前に、全部先回りしてた。
頑張りすぎる恋は、相手の出番を奪う。恋愛は、二人でするもの。片方が全部やってしまうと、もう片方はお客さんになってしまう。
その子は次の恋で、あえて何もしない日を作ってみたらしい。そしたら、初めて相手のほうからサプライズをされた、と嬉しそうに報告してくれた。
二十年一緒にいる秘訣?期待しすぎないこと
「二十年一緒にいる秘訣?期待しすぎないこと。あと、たまに見直すこと」
結婚して二十年になる常連の子が、笑いながら教えてくれた。
(たまに見直す、ってとこがいい…)
期待しすぎないコツは、相手を天気だと思うこと、とも言ってた。晴れたらラッキー、雨なら傘をさす(笑)
期待しすぎないから、がっかりしない。でも、あきらめるのとは違う。ときどき、あ、この人のこういうとこ好きだったな、と見直す。その二つで、二十年もったらしい。
ノートを捨てたら、恋がうまくいった
冒頭の、恋愛戦略ノートの子の話の続き。
それから半年後。彼女は、あのノートを捨てたと報告してくれた。
「作戦なしで会ったら、なんか、すごく楽だった。向こうも楽そうだった」
彼女は、それからしばらくして、店に来なくなった。最後に届いたLINEには、駆け引きしない恋って、こんなに楽なんだね、と書いてあった。
駆け引きのプロだった僕が、恋愛で負け続けた話
えらそうに書いてるけど、僕自身、恋愛はずっと下手だった。駆け引きを仕事にしてた人間なのに。
楽しい人でいるのに、必死だった
店を辞めてから付き合った人の前で、僕はずっと、楽しい人でいようとしてた。会えば盛り上げる。沈黙が来たら、すぐ次の話題を出す。ホスト時代の癖が、抜けなかった。
付き合って半年たった頃、彼女に言われた。
「あなたといると楽しい。でも、あなたのことは、何も知らない気がする」
(え、いちばん痛いとこ…)
はぁ…図星すぎて、何も言えなかった。楽しい人を演じてる間、本当の僕は、一回も彼女の前に出てなかった。その恋は、それからしばらくして終わった。
何もしなかった夜に、いちばん好かれていた
次に付き合った人とは、最初のデートで、店選びに失敗した。予約したはずの店が、なぜか定休日。
しかたなく、コンビニでアイスを買って、駐車場の縁石に座って食べた。何も気の利いたことが言えなくて、ただ二人で、溶けかけのアイスをかじってた(泣)
あとで、彼女が言った。
「あの日、何もしてなかったでしょ。あれがよかったの」
まさか、あの縁石の三十分が、いちばんの決め手だったとは。何かをしようとしてなかった僕が、彼女にはいちばんよく見えてたらしい。
恋愛を上手くいかせたい人が、今日からできること
最後に、今の恋をうまくいかせたい人へ。大きな作戦はいらない。小さなことを、ひとつずつ。
好きな人の前で、一個だけ素を出す
いきなり全部さらけ出さなくていい。今日、一個だけ素を出してみる。
実は、甘いものに目がない。実は、ホラー映画が苦手。実は、今日ちょっと疲れてる。
素を一個見せると、相手も一個見せてくれることが多い。その交換が、二人の距離を少しずつ縮めていく。
素を出して引かれたら、そのときは、合わない相手だったってこと。それがわかるのも、素を出したからこそ。
相手の正解より、自分の気持ちを先に知る
恋愛でつまずくと、相手は何を考えてるのか、ばかり考えてしまう。
その前に、自分は今、どうしたいのかを知っておく。寂しいのか、もっと会いたいのか、ただ疲れてるだけなのか。自分の気持ちがわかってないと、相手に何を伝えればいいのかも、わからない。
わからないときは、紙に書き出してみる。寂しい、会いたい、疲れた。書いてみると、答えは意外とひとつだったりする。
正直、恋愛の悩みの半分くらいは、自分の気持ちがわかった時点で、勝手にほどけていくよ。

コメント