「ねえ、あの子なんで彼女いないの?」
指名のお客さんが、グラスの縁で向こうの卓を指した。視線の先にいたのは、店で一番顔が整ってる後輩。
切れ長の目に、少し影のある横顔。雑誌から切り抜いて、そのまま連れてきたようなやつだった。
「さあ、なんでだろうね」
笑ってごまかしたけど、答えはだいたい見当がついてた。
顔だけならナンバーワンの後輩が、なぜか選ばれなかった話
初回のお客さんは、みんなあいつを選んだ
初めて来た女の子に、最後に誰ともう一度話したいか選んでもらう場面がある。あいつは、ほぼ毎回そこで名前を挙げられてた。
なのに、二回目の指名につながらない。
帰り際、エレベーターを待つあいだに、女の子たちが小声で俺に言うんだよ。かっこいいけど、なんか疲れちゃった、って。
最初は嫉妬まじりに、顔がいいやつは得だよな、くらいに思ってた。(ぶっちゃけ、かなり羨ましかった)
でも何か月か横で見てるうちに、だんだん見えてきた。顔は入口までしか連れていってくれない。そこから先の廊下を歩けるかどうかは、まるで別の筋肉の仕事なんだって。
彼女いると思われて、誰にも声をかけられない
店の外でも、あいつは似たようなもんだった。
合コンに行けば、女の子たちは遠巻きに眺めるだけ。職場では、あの人は絶対彼女いるよね、のひと言で話が終わる。
実際、常連さんのひとりがこんなことを言ってた。
「絶対彼女いると思って諦めてたの。半年後にフリーだったって知って、膝から崩れたよね」
デパ地下のショーケースに、完璧すぎる見た目のケーキが並んでることあるじゃん。綺麗すぎて、これ食品サンプルじゃない?って素通りされるやつ。イケメンで彼女いない男は、あれに近い。売り物なのに、売り物だと思われてないんだ。
本人も、話しかけられないことに慣れちゃってる。待ってても誰も来ないし、自分から行く習慣もない。顔はいいのに、恋がひとつも始まらない男の完成ってわけ。
イケメンなのに彼女いないやつに共通する、ちょっと残念なクセ
後輩を何か月も観察して、店の外で知ってるイケメンたちも思い浮かべて、共通点を拾ってみた。耳が痛い人もいるだろうけど、まぁ聞いてって。
待っていれば、向こうから来ると思っている
まずはこれ。根っこがかなり深い。
顔がいい男は、子どもの頃から好かれる側にいた人が多い。バレンタインには机にチョコが入ってて、告白もいつもされる側。
だから恋は向こうから始まるもの、っていう前提が骨まで染みついてる。
後輩もそうだった。お客さんからLINEが来るのを待つ。指名されるのを待つ。自分から連絡したら負け、くらいに思ってた節さえあったな。
でも大人の恋って、教室と違って席替えも班分けもない。誰かが一歩踏み出さないと、本当に何も始まらないんだよね。
質問より、自分の話のほうが三倍長い
初回の席で、あいつの会話を横で聞いてたことがある。
筋トレのメニュー、最近買ったスニーカー、昔スカウトされた話。二十分のうち、相手に質問したのは二回あったかどうか。
女の子は笑顔でうなずいてたけど、目線は腕時計に落ちてた。
自分に夢中な人ほど、他人に興味を向ける余白が少ない。顔がいいと周りが勝手に興味を持ってくれるから、質問する力が育たないまま大人になるのさ。
関係ないけど、あいつのスマホのカメラロール、八割が自撮りだった。いや、マジで!
顔で扉が開きすぎて、ノックの仕方を知らない
イケメンの人生って、自動ドアだらけなんだよ。立ってるだけで開く。
バイトの面接も、飲み会の席も、初対面の印象も。たいていのドアが、近づいただけで勝手に開いてきた。
だから、手で押さなきゃ開かない扉の前で立ち尽くしちゃう。相手の機嫌を読む、素直に謝る、自分の弱いところを見せる。恋が深くなるほど必要になるのは、全部手動のドアなのにさ。
付き合っても三か月もたないイケメンは、この扉の前で固まってるやつがほとんど。
好意を向けられすぎて、好意そのものを疑っている
意外と見落とされがちなのが、これ。
寄ってくる人が途切れないと、この人は俺の顔が好きなだけじゃないか、って疑いが先に立つようになる。
後輩が酔った夜、突然ぼやき出したことがあってさ。誰も俺の中身なんか見てない、どうせ顔でしょ、って。
贅沢な悩みに聞こえるのはわかる。でもあいつは本気で、好かれることに疲れてた。好意を向けられるほど一歩引いて、引かれた女の子は脈なしだと思って離れていく。
誰も悪くないのに、すれ違いだけが量産されていくんだから。はぁ…なんなんだろうね、これ。
残念なクセじゃなく、事情を抱えたイケメンもいる
全部が本人の落ち度ってわけでもない。理由があって、あえてひとりでいる男もいる。
それに、そもそも恋愛への関心が薄い人や、女性が恋愛対象じゃない人だっている。それは欠点でも特徴でもなくて、ただのその人。ここは一緒くたにしないでおきたい。
わざと彼女を作らない遊び人は、言葉の端でバレる
イケメンで彼女いないやつの中には、作れないんじゃなく、作らない男が混ざってる。
このタイプは、今は誰とも付き合う気ないんだよね、を会話の早い段階で何気なく口にする。
優しさっぽく見えて、実は予防線。あとで傷つけても、最初に言ったよね、で逃げられるように張っておくやつ。
夜の世界にも、この台詞の使い方がやたらうまい男はいた。言葉は丁寧なのに、未来の話が一切出てこない。来月の予定も、半年後の話もしない。見分けどころは、そこだぜ。
理想が高いというより、比べる癖が抜けない
選べる立場にいた時間が長いと、人は比べる癖がつく。
この子は可愛いけど、前の子のほうが話が合った。こっちは性格いいけど、見た目がちょっと。
減点方式で女性を見てると、満点の人なんて永遠に現れない。他人の答案に赤ペンを入れてるうちに、自分の答案は白紙のまま時間切れ、みたいな話でさ。
店にいた頃、モテるのにずっと独り身の先輩がいた。三十を過ぎたある夜、閉店後のカウンターで言ってたんだよ。選んでるつもりが、気づいたら選ばれなくなってた、って。
あの時の乾いた笑い方が、妙に耳から離れない。
仕事や趣味に全振りして、恋愛が後回し
シンプルに忙しいタイプ。これは残念でもなんでもない。
仕事にのめり込んでたり、サーフィンやバンドに休日を全部注いでたり。恋の優先順位が、今はたまたま下にあるだけ。
こういう男は、同じ熱量で何かに打ち込んでる人に惹かれやすい。追いかけるより、隣で同じ方向を見てるほうが距離の縮まる相手じゃんね。
昔の恋の傷を、まだポケットに入れたまま
元カノに浮気された。何年も付き合った人に、ある日いきなりフラれた。そういう過去を、ポケットに入れたまま歩いてる男もいる。
顔がいいんだから次はすぐ見つかるでしょ、と周りは軽く言う。その軽さが、余計に本人を追い詰めたりするんだ。
こういうタイプには、急かさないことが近道になる。傷が乾くまで、隣で天気の話でもしてればいい。
ホストクラブで女の子たちが漏らした、イケメンへの本音
イケメンに対する女の子たちの本音は、けっこう辛口だった。
三回目までは顔、四回目からは中身
商社で働く常連さんが、ハイボールを片手に言ったことがある。
「顔がいい男って、最初の三回はドキドキするの。でも四回目くらいで、話すことがないのがバレるんだよね」
ときめきには賞味期限がある。最初の三回を自分の話だけで埋めてきた男は、四回目に話題の貯金が尽きる。
聞いた瞬間、ギクッとした。俺も新人の頃、どの席でも同じ話ばっかりしてた時期があったから。(あれは思い出したくない黒歴史)
私なんか、で断ったことを今も悔やんでいる子
逆の話もある。
「大学のとき、すごいイケメンに告白されたの。でも、私なんか釣り合わないって思って断っちゃった。今でもたまに思い出すんだ」
イケメンに彼女がいない理由の一部は、女の子側の遠慮にもあるってこと。こんな人が私を選ぶはずない、きっと遊ばれてる。そうやって、先に扉を閉めてしまう。
この話をしてくれた子、途中で少し目が潤んでた。もったいない、なんて軽い言葉はとても言えなかったな。
地雷か、ただの不器用かを見分けるコツ
気になってる彼がイケメンで彼女なしなら、残念なクセ持ちなのか、事情持ちなのか、遊び人なのかは知っておきたいところ。顔はいくら眺めても答えをくれないから、見るのは言葉と行動。
彼女いない理由を聞いたときの返事
なんで彼女いないの?って、さりげなく聞いてみるといい。返事で半分以上つかめる。
いや全然モテないんだって、と照れながら笑う男は、不器用タイプの可能性が高い。仕事が楽しくてさ、と具体的に話せる男は、全振りタイプ。
ちょっと怖いのは、縛られるのが苦手で、とか、今はひとりに決めたくない、と即答してくる男。答えがやけに滑らか。何度も口にしてきた台詞は、声の温度でわかるもんなんだよ。
元カノの悪口が止まらない男にも、少しブレーキを踏んだほうがいいかもね。
店員さんへの態度と、待ち合わせの五分前
もうひとつ、地味に効く見分け方がある。
レストランの店員さんに、ありがとうと言えるかどうか。顔がいい男は周りが気を遣ってくれる環境で育ってきたぶん、ここで素が出やすい。
待ち合わせに五分前に来るかも見てて。相手を待たせることに無頓着な男は、恋人になっても、相手の時間を軽く扱いがち。
売れ続けてた先輩は、お客さんより必ず先に店の前に立ってた。顔の良し悪しより、こういう五分のほうが信用を積んでいく。それを、あの人の背中で教わった。
誘ってこないのは、脈なしのサインとは限らない
ここ、勘違いしてる女の子がわりといる。
イケメンで彼女いないやつは、かなりの割合で自分から誘う習慣がない。誘われない、イコール興味がない、ではないんだ。
LINEの返信は早いのに、デートの誘いは来ない。会えば楽しそうなのに、次の約束が決まらない。そんな彼なら、こっちから日にちを決めて誘ってみると、驚くほどすぐ乗ってくることがある。
ドアを開ける係を、最初だけこっちが引き受けるイメージかな。そのうち、彼もノックの仕方を覚えていくから。
イケメンなのに彼女いない側の男へ
モテるのと選ばれるのは、似てるようで別物
ここからは、言われる側の男に向けて。
ホスト時代の俺は、顔面偏差値で言えば店の真ん中くらい。それでもそこそこ指名はもらってたのに、プライベートでは三年くらい彼女がいなかった(泣)
モテることと、誰かひとりに選ばれ続けることは、筋トレと料理くらい違う。どっちも手を動かすけど、使う場所が全然別。
顔やノリで寄ってきてもらえるのは、入場券をもらっただけ。その先の席に座り続けたいなら、相手の話を聞いて、覚えて、次に会ったときに思い出す。この地味な作業を、ひとつずつ重ねていくしかない。
顔じゃなくて、覚えてたから来てた
最後に、自分の話をひとつ。
店を辞める少し前、四年通ってくれた常連さんに、なんで俺だったの?って聞いたことがある。正直言って、かっこいいからって言われるのを期待してた(笑)
返ってきたのは、ぜんぜん違う答えだった。
「顔なら、もっといい人いたよ。でもあなた、私が前に話した猫の名前、三回目に来たとき覚えてたじゃん」
その瞬間、頭の中がシーンとした。
猫の名前…。まさか、たったそれだけで。それだけで人は、四年も同じ場所に通ってくれる。
あの後輩にも、この話をしておけばよかった。あいつは結局、一年もたずに店を辞めて、今どこで何をしてるのかも知らない。ただ、どこかの扉の前で、ちゃんとノックしてたらいいなって、たまに考える。

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