「男友達にさ、彼氏作りなよって言われたんだけど。あれ、どういう意味?」
先輩の席にヘルプでついた夜、二十代半ばくらいの子がグラスを揺らしながら聞いてきた。隣の友達が即答する。
「じゃあお前がなれよ、って話じゃん」
席がどっと沸いて、その子も笑ってた。ただ、笑い終わったあとの顔だけ、少し真剣で。
この言葉、アドバイスの顔をしてるくせに、中身はほぼアドバイスじゃないのよ。相手との距離をそっと測る、細い釣り糸みたいなもんでさ。どこまで本気かは、言葉そのものより、すぐ後ろに何がくっついてるかで見分けがつく。
俺も言ったことがある、彼氏作りなよ
偉そうに書いてるけど、白状すると俺も何回か言ってる。
学生時代、言ったその翌月に失恋した
大学の頃、同じゼミに気になる子がいた。告白する勇気なんてゼロ。で、飲み会の帰りに口から出たのが、彼氏作りなよ、だった。
(いや、俺が言いたいのはそれじゃないだろ…)
言った瞬間、自分で自分にツッコんでた。
本当は、彼氏いるの?って聞きたかった。いないなら、俺じゃだめ?と続けたかった。でもそんな直球、投げられるわけがない。だから一番遠回りな球を投げた。
翌月、その子に彼氏ができた。
報告してくれた時の笑顔は、今でもちょっとトラウマ(泣)。素直にアドバイスを受け取ってくれてありがとう。皮肉じゃなく、半分本気でそう思ったっけ。
だから大学時代の同期に作りなよと言われた子の話を店で聞いた時、胸がチクッとした。その彼も昔から彼女が気になってて、直接言えないからそういう言い方をしちゃったらしい。彼女は、なんかドキドキしたって。うまくいってたらいいな、他人事とは思えないし。
自分が名乗り出なくて済む、便利な言葉
ホストになってからも、一度だけ心から言ったことがある。
毎週のように来てくれてた子が、仕事で疲れ切ってるのに、店でだけ無理に笑ってた時期。帰り際に、つい口から出た。彼氏作りなよ、外にちゃんと支えてくれる人がいたほうがいい、って。
売上を考えたら、絶対に言っちゃいけないセリフ。でも、あの言葉に嘘はなかった。
ただ、今ならわかる。あれは優しさであると同時に、逃げでもあったんだよなぁ。俺が支えるとは言えない。言えないから、誰かに支えてもらえと言う。責任を、まだ顔も知らない誰かに預けてるわけ。
彼氏作りなよって、そういう便利さを持ってる。自分は安全な場所に座ったまま、相手の恋愛にそっと手を伸ばせる言葉なんだ。
本音は、彼氏作りなよの後ろの一言に出る
店で聞いた話を並べると、男がこのセリフの後ろにくっつける一言は、いくつかの型に分かれる。そこを拾えば、彼の温度はわりと読める。
もったいない、は長く見てた人の言葉
職場の飲み会のあと、二人で歩いてる時に彼が言ったそう。彼氏作りなよ。なんでと聞いたら、もったいないから、とだけ。
あとからわかった理由は、仕事で頑張る彼女の姿をずっと見てて、こんなに魅力的なのに一人なのはもったいないと心底思ってたから。彼女も最初はからかわれたと思ったのに、その日を境に少し意識するようになったって。
もったいないって、価値をわかってる人しか使わない言葉じゃん。いいところを知ってるのに、それが誰にも見つけられてない。そのじれったさが、口からこぼれてる。
久しぶりに会った男友達から、一人でいるのがもったいない気がして、と言われた子もいた。普段は軽いノリの彼が、その日だけ妙に真面目な顔。彼女が昔恋愛で傷ついた話を、ちゃんと覚えてたらしい。
支えてもらいなよ、は自分が支えたい人の裏返し
残業中の彼女に、帰り際の彼がひとこと。彼氏作りなよ、誰かに支えてもらった方がいいよ。
自分で大丈夫と返されて、わかってるけど、なんか気になって、と小さく言ったんだって。
この小さく、に全部詰まってる。本当はその誰かになりたい。でも名乗り出る度胸はまだない。
さっき書いた俺のセリフと、ほぼ同じ形でさ。読んだ瞬間、苦笑いしかできなかったわ。
彼女の感想は、嬉しいような、複雑な気持ち。そりゃそうなるよね。
寂しく見える、は観察日記の一行目
一人でランチしてた彼女に、同僚が言った。彼氏作りなよ、誰かと一緒に食べた方がいいよ。別に一人でいいと返したら、なんか寂しく見えるから、と。
注目したいのは、彼がいつ、どこで彼女を見てたか。
ランチがいつも一人だと知ってる時点で、何度も視界に入れてる。グループで遊んでる時、恋愛とか面倒くさいと言った彼女を、少し寂しそうだと感じた男もいた。
理由が具体的であればあるほど、彼が彼女を見てた時間は長い。これ、かなり使える物差し。
絶対いい人いるよ、は少しだけ遠い
逆に、温度が控えめなのがこのあたり。
最近出会いがない、とぼやいた子に、グループの中で彼が、じゃあ彼氏作りなよ、一人より楽しいよと軽く返した話。恋愛は面倒と言った子に、絶対いい人いるよと勧めた話。
一人に向けたというより、その場の空気に向けた言葉に近い。気にかける気持ちも、幸せを願う気持ちも本物。ただ、自分を候補の一人として数えてる感じは薄めかな。
もちろん、あとから聞くと少し心配してたとか、真剣に彼女の幸せを願ってたって話も出てくる。グループの中で言うのか、二人きりで言うのか。そこでも温度はかなり変わってくるっしょ。
ただそう思っただけ、で締める男たち
聞いた話のほぼ全部に、同じオチがついてた。
彼女があとで真意を聞くと、男はこう返す。ただそう思っただけ。ただのアドバイス。ただの心配。ただの一言。
揃いも揃って、ただ。笑っちゃうくらい足並みがそろってる。
ただ、はシートベルト
男がこのただを付け足すのは、気持ちがバレた時の衝撃に備えてるから。
彼女が引いたら、ただのアドバイスだったことにできる。喜んでくれたら、そこから次の一歩を考えればいい。どっちに転んでも大けがしないように、先にベルトを締めてるわけ。
ずるい?うん、ずるい。俺もそのずるさで何年か食ってきたから、よくわかる。
照れと逃げ道は、同じ顔をしてる
照れくさそうに答えた大学の同期、真面目な顔をした飲み会帰りの彼、小さな声でつぶやいた職場の同僚。
表情だけ見ても、照れなのか逃げ道の確保なのか、正直見分けはつかない。両方が同時に入ってることも普通にあるし。
見分けたいなら、言われたあとの彼の動きを見るといい。ランチに誘ってくるようになったとか、残業の日に缶コーヒーを机に置いていくとか。言葉で一歩引いたぶん、行動で半歩寄ってくる男は、たぶん気持ちがある。言いっぱなしで何も変わらないなら、本当にただの一言だったのかもね。
彼氏作りなよと言われた時の、ちょうどいい返し方
なんで?と聞き返した子ほど、本音に近づける
店で話を聞いてて面白かったのは、なんで?と聞き返した子ほど、相手の本音に近いところまで行けてたこと。
聞き返されたら、男は理由を言うしかない。そこで出てくる一言が、さっきの物差しになる。もったいないなのか、寂しそうに見えたのか、ただ何となくなのか。
聞き返す時は、軽めでいい。問い詰める口調になった途端、例のシートベルトがすぐ締まっちゃうから。
じゃあ紹介してよ、で温度を測る
もうひとつ、ちょっといじわるな返し。じゃあ誰か紹介してよ、と笑って言ってみる。
純粋なアドバイスなら、男は普通に誰かの名前を出してくる。少しでも気があるなら、言葉に詰まる。急に話題を変えたり、そういうのは自分で見つけなよ、と妙に濁したり。
自分で言い出しておいて、誰かに渡したくはない。その矛盾が、返事の間にそのまま出るんだよね。
冒頭の席の子に、帰り際これを耳打ちした。翌週来た時、彼女はニヤッとして言った。
「紹介してって言ったら、めっちゃ黙った」
(あ、それはもう答え出てるやつだわ…)
心の中でそうつぶやいて、とりあえず乾杯だけしておいた。

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